少々面倒なことになった。
というか、面倒なことだと予感はしていた。しかし俺は、これを断ることが何時まで経っても出来ず、結局は頭領の笑顔を見たいがために多少の無茶は引き受けてしまう。ただ今回は、無茶というよりただただ手間がかかる事例なだけましなのかもしれない。
この前なんか、政府に頼まれた仕事を、本来は頭領一人でこなさなければいけないはずが、頭領が熱を出してしまい、頭が回らないという事例があった。結局熱でうなされている頭領の看病をしながらかつ、頭領の仕事を俺ともう一人、俺の昔からの腐れ縁である島崎戒人(シマザキ カイト)でこなして何とかその場はしのぎ切ることが出来た。
戒人は特に俺や頭領に関して不満は言わなかったし、一人でやろうとしていたところを通りがかり、手伝おうかと提案したのは彼自身なのだ。彼は昔からそうやって、俺に何かと気をかけてくれているが、まさかこの組織で共に過ごすことになるとは、昔の俺からすれば考えもつかなかっただろう。
結局その後彼女は、俺と戒人に夕食をご馳走した。てっきりその時は、どこか高級レストランにでも連れて行ってくれるのかと思っていたが、珍しく頭領が手料理を奮って作ってくれた。普段組織の食堂を利用するか、自炊するか、外食するかの三択でしか料理を口にすることがなかった俺達からすれば、頭領の手料理なんて願ってもみないご馳走だった。
あの時の彼女の手料理は、とても美味しかった。あの味を言葉で表現できるかどうかは俺としては自信がないが、強いて言葉を選んで表現してみるとすると、頭領にしては珍しく家庭的なものであったと俺は思う。
どこか温かくて、心に染みるというか。俺が普段食べる出来合いの弁当とか、そこらのスーパーで買いだめしているカップラーメンとか、そんなものの味ではこれから物足りなくなってしまうくらい、彼女の料理は自分の中で響いていた。
いっそ、毎日作ってくれれば俺としてもこうして悩まずに済むのだが、先はまだ長そうだ。ここで俺と彼女の関係を、俺が知っているだけ余すところなく語ってしまえば、次の話に差し支えてしまうのでここでは割愛しよう。
俺は自室に戻り、一旦備え付けのソファに横たわる。別に眠いというわけではないのだが、何となく寝ころびたくなった。まだ彼女と約束した時間まで余裕があるから、仮眠してしまおうかとも考えたが、万が一うっかり寝過ごしでもしてしまえば、彼女が怒ることは目に見えていたので、ここは何か別のことをして気を紛らわせることにした。
仕事がない時のサンドリヨンは退屈なもので、言わば好きにしていいよ、と言われているようなものなのだが、特に目立った趣味などない俺からしたら何もせずに時間が過ぎていくのは、どこか惜しいような気がした。


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