そのため幸いにも、客と同化してしまうことはなく追いやすい。元々暗闇で一人を追いかける仕事もこなしているくらいだ、俺にとっても灰音さんにとっても、さほど難しい事ではなかった。
まず初めにたどりついたのは、コーヒーカップだ。どこの遊園地にでも大体は置いてあるアトラクションだが、さすが童話の国、コーヒーカップ自体にもメルヘンなラッピングがしてある。砂糖菓子のようなパステルカラーの配色に、ロココ調を思わせるような曲線模様。コント・ド・フェはどちらかと言うとお子様向けなので、アトラクションも比較的優しめのものが多い。

「今の時間だとここが空いています。あと与謝野さんがいない代わりに、とあるメモを預かってきているので、こちらをお渡ししますね」

そう言って、森さんは俺に一枚の紙切れを手渡した。どうやら結が俺たちのためにわざわざ手書きで書いてくれたのであろう、手作り感万歳の宝の地図が書いてあった。

「……結、こういうの好きだなあ」

灰音さんは俺の呆れた言葉とは別に、目を輝かせていた。さすが箱入り娘のお嬢様なだけある、そういうイベント事には確実に興味を示すのだ。

「なにこれ、あの子が作ったの? すごいわね!」
「あの人も暇ですよね……、海音寺さんが来るって知ってから、仕事の合間を縫って書いていたみたいですよ。たぶん当日も何かしらする予定だったんでしょうから、何だか申し訳ないですけど……。その分私がプランも聞いて来ているので、与謝野さんの分も取り組んでもらえると、その、嬉しいです」

その言葉の上辺こそ、上司の尻拭いをさせられてうんざりしているように聞こえなくもないが、彼女は困った顔をしながらもわずかに笑っていた。

「ええ。せっかく結が作ってくれたんですし、宝探しさせて下さい。灰音さんもどうやらやりたくてうずうずしているようなので」
「遊園地で宝探しって、催しものみたいでいいじゃない! ね、早くやりましょ、ここに連れてきてくれたってことは、ここに何かお宝までの手がかりが隠されているってことでしょ?」
「あ、はい。他のゲストの方に見つかってしまうと困るので、結構分かりにくいところに置いてありますが、きっと海音寺さんなら届くと思うので……」
「届く?」
「手がかりが見つかったら一旦こっちに戻って来てくださいね。私は入り口に立っていますから」

森さんはそう言って、小走りで入り口の方へと戻っていった。その足取りは、どこか軽く見えたが、気のせいだろうか。

「じゃあ灰音さん、早いこと見つけてしまいましょう。森さんのヒントからするに、手がかりは高い場所にあるみたいなので」
「ええ、そうね。でもその前に、コーヒーカップに乗ってもいいかしら? 子供の時以来だから、何だか懐かしくって」
「そうですね、せっかく来たんですし、遊んでいきましょうか」

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