「……来夢さんですか」

夢野来夢。ユメノライム。サンドリヨンの人形師。
俺と同じく無表情でいる時が多いが、彼女は俺のように表情を隠しているのではなくて、単純に感情が乏しいタイプの女性だ。アルジャーノンに住み着いているギャンブラーの彼女と似ている気もするが、来夢さんはギャンブラーの彼女より毒舌でどこか刺々しい印象がある。

「あ、雫。こんなところにいたんだ」
「俺に何か用ですか? 俺は灰音さんを探しているのですが、来夢さん、何か知りませんか?」
「そう、そのことについて言っておこうと思って」

来夢さんは灰音さんについて何か知っているようだ。俺は来夢さんの次の言葉を待った。彼女は言う。

「灰音、しばらくサンドリヨンを留守にするらしいよ。理由は聞いても言ってくれなかったけど。何でもどうしても外せない用事が出来たから、とか言って」
「……そうなんですか?」

初耳だった。それならば俺に言ってくれればよかったのに、灰音さんはどうして言ってくれなかったのだろう。ただの一部下にわざわざ言わなくてもいいと言われればその通りなのだが、いくらでも話すタイミングはあったのに昨日全くその素振りは見せなかった。

「あ、伝言はこう。
『海音寺くんには何も言わずにいなくなってしまって申し訳ないけど、私は帰ってくるつもりでいるから安心して。それに、遊園地行くでしょ? せっかく誘ってくれたなら行かなきゃ勿体ないじゃない?だから、しばらくいい子にして待ってるのよ、仕事に関しては来夢が仕切ってくれてるから、もし何か仕事のことで疑問があったら来夢を頼ってね』」
「……帰ってくるつもりでいる?」

俺はふとした来夢さんの言葉選びか、それとも灰音さんの言葉そのままなのかは知らないが、そのワードに引っかかった。帰ることが分かっているならば、帰ると言えばいい話だ。それを帰ってくるつもり≠ナいるというその発言だけでは、実際はどうなるか分からないけれど、自分は帰る予定でいる―――と言った意図が読み取れてしまうのだ。
……ただの気のせいか考えすぎならばいいのだが。

「どうかした?」
「いえ。何でもないです。ところで、どうして来夢さんに任されたのでしょう? あ、別に俺に任せてほしいという意図の質問ではなかったのですが、単に気になって」
「……じゃあ逆に質問するけど、私以外サンドリヨンの面子でまともな人っている?」


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