異性の前でウェディングドレス着る方が一人でウェディングドレス着るより絶対恥ずかしいだろ、と俺は思ったがここで俺が異性として見られていないことを密かに自覚した。つまり俺のポジションは単なる幼馴染であり、彼女の両親と変わりはしないのである。

「じゃ、決まったら善は急げね。さ、早く支度して!」

嬉しそうな彼女の顔を見ると複雑な気持ちになってしまう俺には気が付かず、彼女は早々と玄関に向かって靴ベラを使いながらハイヒールを履き始めた。
彼女が玄関を開けてから気が付いたが、外は既に青空になっていた。ただ、雨はまだ降っており、傘を差している人も何人か歩いているのが見える。狐の嫁入りか、とぽつり独り言を呟いた。

どう見ても場違いだった。
そこには俺達と同じように男女で来ている二人組も多く見られたが、どう見ても彼らは恋人同士であった。仲良さそうにどのドレスがいいか相手に聞いているその姿は、俺と彼女のようなお遊びで来ている輩ではなく、これから結婚式を控えていますよという幸せオーラが周りに漂っていた。
彼女も場所とタイミング、というか連れてくる相手を間違えたと思っているのだろう、特に何も言わずずっとあらぬ方向を向いている。柄にもなく恥ずかしがっているのかもしれない。

「コスプレ大会じゃねえ、分かったならさっさと帰ろう。お前もこんな雰囲気で着替えるの嫌だろうし」
「……いいや、何としてでも着てみせるのよ。私は一度するって決めたことに易々と尻を向けるような事をしたくない」
「でもこれはどう見ても俺達のいるような場所じゃないだろ。それはお前にも分かるだろ、それにここにいたら俺達、ほら、周りと同じようにカップルだって思われるかもしれないじゃん? 俺は嫌だね。お前とカップルなんか。……第一お前もそういう風に思ってねえだろうし」

嘘だった。何が嘘かと言うと、自分はここにいるのが嫌だということ――というよりは、自分達が他の人からカップルに見られること、だった。


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