俺に理解できない思考では無かったものの、これ程に図書館という場所について熱く語っている二十代の女性もなかなかおるまい。
 そんな彼女が気に入る夜鷹が書いた最新作が、【六月の花嫁】という夜鷹にしては珍しい恋愛ものの小説である。夜鷹は基本恋愛を前面に出して作品を書くことは少ない。主なジャンル、と言われればミステリー、ファンタジー、ホラー、捕物帳、エッセイと絞り切れないのが夜鷹の特徴でもあるが、恋愛だけは二の次で、飾りや引き立て役のために恋愛要素を盛り込むことがあっても恋愛を大きなテーマとして書かれることは今までなかったのだと言う。
 そんな夜鷹が今回思い切って出した恋愛処女作、【六月の花嫁】。屋烏夜鷹初めての恋愛小説、という帯を付け、満を持して出版されたその本は、相も変わらず順調に本屋の売り上げランキングに堂々と初登場で名乗り上げていた。
 その内容としては実にシンプルなもので、六月の花嫁、所謂ジューンブライドに憧れる女性が主人公の話だ。雨の降る中、主人公は一途に思っていた最愛の男性と再会する。傘を持っていなかった主人公に相手の男性が傘を差し出すシーンから物語は始まり、最後には二人が結ばれるという王道パターンのものではあったが、事細かに書かれた一人称である女性の心理描写に共感した女性が続出したらしく、瞬く間にその小説は屋烏夜鷹にとっても貴重な実験の成功作となった。

「その調子だとどうやらあんたも読んだみたいね、それなら話は早いわ。今日はあんたに頼みがあって来たの」
「頼み?」


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