心配しているのかしていないのか、彼女は意味もなく高い天井にぶら下がっている黒いシャンデリアを見つめた。
今電気がついているのはこのシャンデリアではなく、八十神の手元にあるスタンドだけで薄暗い状況は棘木が来ても結局はそのままだった。
八十神の考えからして、きっと田所が来るまではここにいておこうと思っているのだろう。実際変える準備ももう出来ていたようだし、明日葉はぎりぎりでこの社内に潜り込むことが出来たというのもまた事実であった。
そんな待ちぼうけをしていた明日葉を見計らっていたように、エレベーターの開く音がした。

「あのー、すみません、待たせちゃいましたか?」

意識が朦朧としたまま、棘木はゆっくりと声のした方へと顔を向けた。
一瞬彼が驚いたのは、優しそうな声色と反面に人によっては不気味さを感じさせるであろう狐の面が視線に入り込んだからである。たとえ暗がりでも、その白い面に目がいかないわけはなかった。
しかしそれに誰も突っ込むこともなく、狐の面をした男は棘木の方へと近づいて軽く会釈した。

「初めまして、棘木くん。僕は田所命といいます、こう見えても明日葉さんの秘書です」

狐面の男―――田所は常に笑ったそのお面をつけてそう言った。


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