* The Banquet


バンケット―――『宴』と書いてエンと読む。
佳白が零式を連れてアフター・ライフが言い伝えられている場所へと向かうことを決めたのとほぼ同時刻のこと。
バンケットというのには少しささやかではあったが、身繕いをした男女がとある店に向かって同じように歩いていた。

「―――やっぱりか」
「……佳白さん、来れないんですか?」
「どうもそうらしい、またあの人なんかやらかしたな」

結局この二人―――木佐貫美那弥と藤堂紫織は高級レストランで二人、食事をとることになった。
ネオンがきらめく篝区の繁華街は、目移りするような音や色、においであふれていた。だが二人はそれに誘惑されることもなく、一方向に進み歩みを緩めようともしない。
紫織にとっては篝区の風景などどうでもいいことだったし、美那弥もそれについて行くだけである。

「ところで、今回とったお店っていうのはどんなところなんですか?」
「篝区だから中華料理店だろう、―――と言いたいところだが今回はフランス料理店だ。あの人は洋食が好きらしいからな」
「せっかくキャスティングしたんですけどね、残念です」
「ドタキャンが昔から多いからな、あの人は、……確かお前は、あの人のファンとかだっけか」
「ええ、佳白さんって毎回人が変わったようなすごい演技をするんですよ、それに何だかあの人の雰囲気も好きなんです」

しおりさんに似ていて、という最後に言いそうになった言葉を飲み込んで美那弥は言った。
それに対して紫織はそうか、そんなに好きなんだなとそっけない返事を返しただけだった。自分から聞いておいてそれはどんなリアクションだ、と美那弥は不思議に思った。


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