――――――あ。
真面目に重要なことを言い忘れていました。僕の肩書きについてです。
これからお話しする事柄についても関係のあることですから、欠かせない要素です。
学生は先程述べましたが、それ以外に僕はこうも呼ばれています。

【暴君】、と。

似合わないですか? 褒め言葉なんでしょうかそれ?
そんなもやしみたいな体系で暴君なんて、片腹痛いとか言われ慣れてますよ。
そう言った輩には全員、手心を加えておきました。
今回彼方には大サービスで、大目に見てあげますから、反省して下さいね。
こんなもやしみたいな体系で暴君なんです、ご承知ください。
どうして暴君と呼ばれるようになったのかは、後々語ることに致しましょう。勿体ぶることでもないですが、まあ話させてください。
あと、僕の同級生である彼女の紹介も一応しておきましょうか。

彼女は、自らを持統瑞姫(じとうみずき)と名乗り、現在は僕に身柄を預けられています。
身柄を預けられているとはどういうことかと言えば、またややこしくなるのでこの話では割愛させていただきましょう。簡単に言えば同居しているのです。
あと、僕の彼女です。向こうから一方的に結び付けられたんですが。
僕としては彼女なんて別に誰でも良かったですし、むしろ彼女は、彼氏が僕でよかったのかなんてこの時はさすがに思いました。
彼女いわく、
『勘違いするなよ、別にお前のことなんか好きじゃない、私の今後の展開に有利だから仕方なく付き合っているだけだ』だそうです。
今後の展開って何でしょう? 玉の輿とか?
先程話したとおり、僕の家は金持ちでも何でもないんですけどね。雰囲気だけです。
むしろ彼女の苗字だけを見ると、あっちの方が書院造の豪邸とかに住んでそうです。
持統天皇と書院造、時代が全然違いますが。
というわけで僕だけ理解できず一人取り残される形で、交際はスタートしました。
かと言って仲睦まじくデートに行くとか全然これっぽっちもしてません。
高校は給食がないので弁当を持っていくのですが、愛妻弁当を作ってくれたこともありません。
つーか僕のほうが料理作るのは上手いぐらいです。いやこれホント。
この前彼女が卵焼きを作っているのを見たんですが、何ですかあれ、どこの未確認物体ですか。変な臭いはするわ(詳しく描写すれば、一ヶ月ぐらい掃除はおろか触ってすらいない排水溝にたまった生ごみみたいな臭い)、原型は留めていないわ(アメーバか、はたまたウミウシと例えるべきか、
直ぐに蒸発してしまいそうな半液体状態)、確実に食欲を失せさせることが出来る兵器ですね。
これはさすがに才能すら感じます。
一回彼女自身が味見しようと菜箸で口を付けかけたのですが、さすがにそれは命の危険があるだろうと感じて僕が食べるといって必死で止めました。
言ったのはいいものの、自分だって死ぬかもしれないのですから、容易に食べるわけにはいきません。しかし彼女はじっとこちらを凝視してくるのです。
食べろというなら、それは即ち死ねと遠まわしに言っているんだろう、実は何らかの理由で交際を申し込み僕に近付いて、手料理で毒殺しようと企んでいるのではと本気で疑いにかかりました。ですから本能の赴くままに、彼女に『あ、あそこに羽の生えた妖精らしきものが』と指を向こう側に指しながら言い、咄嗟に卵焼きらしいダークマターをきっちりティッシュに包んでゴミ箱の中に捨てました。
きっとあのまま食べていたら、天使と花畑が見えていたのでしょうね。
本来あの卵焼きは彼女が僕に丹精こめて作ったものだったのでしょうから、多少なりとも良心は痛みますがこの際背に腹は変えられません。だって九死に一生だったのですから。
今思えば、彼女にしっかり料理の作り方をレクチャーしないと自覚がない分僕の死期が早まりそうなので今度休みを使ってちゃんと指導するべきですね。






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