そういえばそんなごたごたがあった後、その友人が笑顔で僕にお礼を言いに来ましたっけ。
僕自身は別に彼の恋のキューピッドになろうなどと思っても見ませんでした。元々そんな役回りをする性格でもありませんでしたから。
だから彼にお礼を言われても、はあ、と何となく話を促すことくらいしかしていませんでした。
それでも熱意は伝わって、その時は良いことをしたのかなと思ってしまいましたね。
他人の秘密を話すのは悪いことだと散々親に叩き込まれたのに、ですよ。我ながら単純です。
それ以来僕は人の秘密を口が滑ったかのように話すことにしています。
ええ、もちろん嘘ですけど。そんなことしたら信用を損なうに決まってます。
ところで嘘という単語で思い出したんですが、嘘吐きのパラドックスって知ってます?何、とても簡単なお話ですよ。
クレタ人という部族が、「クレタ人は嘘吐きだ」という言葉を残したそうなんです。
つまり、クレタ人が嘘吐きなら「クレタ人は嘘吐きだ」ということ自体が嘘になりますよね。
でもそれなら嘘の嘘、裏の裏で、嘘吐きではないことになります。
ついてきてますか?
仮に「クレタ人は嘘吐きだ」という言葉が本当ならば、クレタ人は嘘吐きではないのです。
「クレタ人は嘘吐きだ」という言葉が、こうして矛盾、所謂パラドックスが生じるわけです。
まあただの言葉遊びですよ、そう深く考えないでくださいな。
そんな間抜けみたいな顔しなくても大丈夫ですから。
―――・・・・・・おや。
うっかり僕がお喋りなばかりに大分話が反れてしまいましたね、失礼。手八丁口八丁だなんて言葉がありますけれど、正に僕のためにあるような言葉ですね。
ではまず手始めに、簡単に僕の自己紹介をさせていただきましょう。
僕のことを知らない人のほうが多いでしょうし。



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