『メアリー・セレストという場所の存在なんて初めからないんですよ』

真面目な鹿ヶ谷が嘘をつくとは思えないので、僕はどう反応していいかわかりません。
つまり彼は、神岡が言ったことは出鱈目だと僕に言い聞かせたようです。
仮にメアリー・セレストが架空の場所だったとしても、どうして神岡がそんな嘘をつく必要があるのか見当もつきません。
でもそれを鹿ヶ谷が知るはずもないし、ただ彼を余計に巻き込んでしまうだけでしょう。

「・・・・・・・・・・・・」

僕は何も言葉を発することが出来ません。すっかり顔まで硬直してしまったようです。
僕の返答を待っているらしいので、鹿ヶ谷からは何も返事がありません。
とりあえず何か話さないと変な心配をかけると思った僕は、半無意識に彼の名前を呼びます。

「鹿ヶ谷」
『はい』
「・・・・・・教えてくれて、ありがとう」
『いえ、僕はこれくらいしか出来ませんが―――神岡にもう一度聞いてみてください』

鹿ヶ谷はどこまでも僕の心配をしてくれました。
・・・・・・うん、既に彼は僕を心配してくれていたようです。名前を呼んだのは無駄な試みだったかもしれません。
まあでも減るものでもありませんし、言葉は紡げたのでよしとしましょう。

「明日も部活があるのでその時にまた聞いてみます」
『お願いします』
「じゃあ、また学校で会いましょう」

僕は話を切り上げて、鹿ヶ谷が通話を切ったのを確認してから携帯電話の電源を切りました。
この通話が終わったら少しうたた寝しようかと思っていたのに、案の定変に目が冴えてしまって寝付けません。
そしてまたわからなくなった現状を暇つぶし程度に一旦、ソファーで横になりながら整理します。

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