一人欠けた年末最後の日

 閉店作業を行う。今日の客足も良い。明日はどうだろうか。来年に入れば元旦休みを取っている。(商売繁盛でも願うかね)桜屋敷と同様のことを願いそうなのが、気に食わないが。食器や調理器具を片付け終え、店の掃除を始める。上から拭き上げを行っていると、店の扉が開いた。CLOSE≠ノは既にしてある。訪れるとしたら、一人しか心当たりがいない。××が、そうっと扉から出てきた。
「ごめん、虎次郎。通りかかったら、灯りが付いてたもので」
「いいぜ。気にしてない」
「やっぱり薫は来てないんだね」
「東京に行ったからなぁ。正月には帰る話らしいが、水でいいか?」
「うん。それでお願い」
 既に付き合いは長い。なにを頼むか欲しいかは自然とわかる。グラスを取り出し、冷蔵庫から水を取り出す。それを注ぎ、相手に渡した。××は冷たい水で水分を補給する。
「気分転換に、少し滑っていたんだけど」
「あぁ。ボードを見ればわかる」
「やっぱり? やむちん通りも暗かったし」
「そんなところまで行ってたのか」
「坂が良い勾配で」
「近所迷惑になるぞ」
「反省してます」
 水を一杯飲む。「今年も最後だなぁって思ったら、なんか感慨深くて」「年越しビーフや騒ぎも、Sならあるぜ」その一言に、××の視線が上がる。
「行ったことあるの?」
「俺はな。薫は『下らん』といって一度も参加しなかったが」
「まぁ、愛抱夢がいなければ行かなさそうだし。仕方ないんじゃない?」
「馬鹿騒ぎも可愛い女の子に囲まれるのも良いものなのに」
「虎次郎はそればっかりだね」
「そう拗ねないでくれよ、シニョリーナ」
「流れるような口説き、本当凄いよね」
「本気にしてくれないから、そういう風にしたんだぜ?」
「知ってる」
 というものの、互いに気にしない。南城は溜息を吐き、××は水を飲む。『シニョリーナ』と呼ぶときは逃げ道が残されており、他のときは残されていない。口説きも強引さが信条の男は、わかりやすい目印を残していた。それを××は知りつつ、平行線を保つ。
「薫も、正月休みがあるといいね」
「こっちでの仕事もあるらしいから、飛んで帰ってくるみたいだぜ」
「ヤバイ。忙しすぎて寝てなさそう」
「どうせ明後日くらいには一日中寝てるんだろ。アイツ」
「休息も必要だから仕方ないじゃない」
「だな」
 そうして会話をしながら、一人欠けた店で過ごした。


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