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夕飯も終わり、就寝時間が過ぎている。辺りも暗くなってるというのに、宿舎裏の高い木の上に、数名。許可されていない立体起動装置を使って登ってやがるな、あのクソガキ共。
あの位置的に、あいつらが何を目的としているのかはすぐに分かった。目的を知れば尚のこと、処分してやらねェといけねぇな。

私室に戻り自前の立体起動装置を取り付け、奴らの背後から静かに忍び寄った。ガキ共は興奮しているのか、後ろにいる俺にまったく気付いていない様子だ。今なら全員のうなじを綺麗に一撃で仕留めることができそうだ。

「なあジャン、本当にここから見えるのかよ」
「るっせコニー、声でけーんだよ。誰かにバレたらどうすんだよ」
「おいライナー、もう少し屈めよ見えねぇだろ」
「本当に名前があそこでシャワー浴びんのかよ、あんなところで...信じらんねぇ...」

俺の私室がある幹部棟の裏には、簡易的なシャワーがある。一応ついたてがあるにはあるが、心許ない木の板が一枚置いてあるだけだ。こいつらの会話からして、おそらく狙いは名前のシャワーを覗きに来たってことだ。確かにこの木の上からなら、見えないこともないかもしれないなぁ、クズ野郎共。

「なぁ、名前って胸デカいよな」
「ああ、ムチっとしてていいよな。あれは兵士には無い体つきだ」
「たまにピッタリした服着てるとヤベェよな」

現行犯で捕まえるために、もう少し泳がしてやろう、と息を潜めていたが、こめかみに青筋が浮き出るビキビキという音が聞こえてしまいそうだ。どいつもこいつもこれだから思春期のガキは。

「下着どんなの付けてくると思う?」
「俺はピンクがいいなあ」
「黒だ」
「あ?なんで黒だって言い切れんだよライナー」
「あいつは絶対黒だ」
「なんだよその気持ち悪い自信はどこからくるんだよ」
「前に名前と街に行った時、俺が選んで...ってああ!名前が来たぞ!あと少しで見えそうだ!」
「何が見えるって?楽しそうだな、お前ら。俺にも教えてくれよ」
「ほら、名前が、あ!やっぱり黒だ!...ってリヴァイ兵長?!」

コニー、ジャン、ライナーがギギギ...と音が聞こえるくらいのぎこちなさでこちらにこの世の終わりを悟った顔を向けた。黙ってもうしばらく見守るつもりだったが、口が動いてしまっていた。

「...お前ら、揃いも揃って巨人でも見つけたかのようなツラしやがって。俺でガッカリしたか?巨人の方がまだマシだってツラか」
「.........」
「言い訳もねぇのか?」
「...すみませんでした!!!」

就寝時刻を過ぎて宿舎を出てることか、無断で立体起動装置を使用していることか、女のシャワーを覗こうとしたことか。何に対しての謝罪だ、全てか。

土下座決め込んでる3人の後ろで、こちらに気付く様子もなく名前がシャワーを浴び始めたのか、呑気な湯気が上がっていた。全然見えねーじゃねぇか。


***

シャワーを止めて、衝立に掛けてたバスタオルで身体を拭いた。ここのシャワーブースは屋外だからとにかくこの時期は寒すぎる。着替えて外に出ると、何故かリヴァイ兵長が完全装備で仁王立ちしていた。

「何してんですか」
「...てめぇ、どうしてこんなところでシャワーを浴びてやがる」
「どうしてって私が聞きたいですよ。どうして私の部屋にお風呂ついてないんですか」
「出世しろ」

なんだかイライラしている様子の兵長は私の前を歩きながら、今度から女性兵士が使ってる大浴場を使え、と兵長は言った。
兵長の部屋には立派なお風呂があって、湯船もある。いつでも好きな時間に私室でお風呂に入れる兵長には、分からないだろうね。兵士たちが入った後の湯船がどんなに濁ってるかも、部屋から大浴場までの遠さも、その間に湯冷めして風邪ひくかもってことも。と呟けばギロリと睨まれた。ギリギリ聞こえてた。


宿舎に入る手前で、普段なかなか見ない光景を目にして立ち止まった。

「あの人たちはなんで木に逆さまに吊るされてるんですか」
「さあな。趣味だろ」
「兵長はなんでこんな時間にあんな場所に?立体起動装置までつけて」
「......趣味だ」
「変わったご趣味で」

見知った104期の男の子たちがロープにぐるぐる巻きにされて木の枝にブラブラと逆さにぶら下がってるのも、兵長の奇行もまあもう慣れた。兵士って普段から戦いすぎてたぶんちょっとおかしくなっちゃってるんだと思う。

私の前を歩く兵長は、私室に帰るんだろう。兵長の部屋は私の部屋の一個奥なので、付いていく形になってしまう。なんで同じ棟の隣の部屋なのにこうも間取りが違うんだろう。風呂トイレ付きの部屋に引っ越ししたい、と何度か直談判してるが今のところ聞き入れてもらっていない。

「じゃ、おやすみなさい兵長」
「...明日から黒の下着は禁止だ」

エッ 
おやすみの挨拶して、部屋の扉を閉めようとした瞬間に、ガッと兵長の足が扉の隙間に差し込まれた。リヴァイ兵長から気持ち悪い発言でたんだけどどうした?

「は?もしかしてシャワー覗いてたんですか?」
「ベージュにしろ」
「いやなんで」
「口答えするんじゃねぇ、あいつらと同じ目に遭いたいのか」
「エッ さっきの逆さ吊りの人たちってまさか兵長が?」
「...お前のためを思って言ってやってるんだろうが」
「私のためを思ってるなら二度と下着の指示とか出さないでもらえますか?」

部屋にはみ出てる兵長のブーツを上から踏んで、勢いよく扉を閉めた。閉める直前に見た兵長の顔は、今まで見た事ないくらい絶望してた。なんなの。


覗きの脅威から私の安寧がリヴァイ兵長によって密かに守られていた事を知るのはだいぶ先の話。




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