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調査兵団の団長補佐という名目で与えられた仕事の中で、一番面倒なのが洗濯だ。なんでかってこの世界には洗濯機も乾燥機も無い。
洗い物は多岐に渡るが、主に宿舎のシーツやタオルをまとめて洗濯している。基本的には自分の服は自分で洗うのがここのルールだが、たまにシーツの中にシャツや私服を紛れ込ませてくる兵士がいる。
いちいち突き返すのも面倒なので一緒に洗っている。今日はライナーのパンツだ。あいつ何度目だ?絶対わざとでしょ。この世界にもセクハラってあったんだ。

本部裏の庭は洗濯物を干せるように、物干し竿がたくさん置かれている。籠から洗い立てのシーツを取り出して、広げて干していく。
今日は天気が良く、暖かい日差しが降り注いでいる。洗濯物が早く乾きそう。

訓練場の森の方から聞こえる兵士たちの元気な声をBGMに、この世界へトリップした日のことを思い出していた。朝食の準備の時といい、今日はなんだかあの日のことをよく思い出す。


***

救護室でエルヴィン団長と固い握手を交わし、ここでお世話になると決まってから、早速調査兵団本部の案内をしてもらった。エルヴィン団長は他の用事があるとかで、ハンジさんとリヴァイ兵長とくまなく歩き回った。

「...で、最後に名前の部屋なんだけど...1人だと心細いと思って相部屋を探したんだけど」
「ルームシェアですね!なんだかワクワクします」

新生活に心躍らせている私とは違い、ハンジさんは額に手を置いて思案しているようだ。

「ちょっと今あいにく女子部屋にベッドの空きがなくてね、ここでもいいかな。最近使ってなくて全く掃除してない部屋なんだけど...」

そう言ってハンジさんが指した扉は、幹部宿舎2階の一番手前だった。ギィィィと耳を塞ぎたくなるような音を立てて扉が開くと、こじんまりとした部屋が見て取れた。

理想としていた部屋とは違って明らかに肩が下がった私にハンジさんが慌ててフォローしながら部屋へズカズカと入って行く。

「...どうだい、気に入った?なんというか、シンプルで質素だけど、掃除してリノベーションすればすごく素敵な部屋になると思うよ!」

大袈裟に身振り手振りで励ましているハンジさんの頭にクモの巣がひっついている。

「嫌ですこんなオバケ屋敷みたいな部屋」 
「私はこういう辛気臭い雰囲気好きだな〜研究に没頭できそうだよ!」
「じゃあハンジさんと部屋交換してくださいよ!」
「いいけど...私の部屋の方がここの10倍は汚いよ。虫とキノコのような物がたくさん生えてる」
「あ、結構です、ここがいいです」

「その部屋だけ空気がドブのように不味いな...」

振り返ると、リヴァイ兵長が3メートルくらい離れた廊下の先で口に手を当てていた。いたんだ。いやそんな離れなくてもいいじゃん。かわいい部下の部屋の現状を見てくれよ。

「ドブだと思うなら部屋変えてくださいよ」
「...あー確か裏庭の厩舎の一番手前が空いてたな。昨日死んだ馬がいたところだ。そこならお前の憧れのルームシェアができる」
「いやードブっていいですよねー。私この部屋気に入りました」

厩舎よりはマシだ、だってここには干し草ではなくベッドがある。ていうかあれはベッド?木の箱に布が掛けられてるのはベッドっていう?その傍に小さなテーブルと椅子。それだけの部屋だ。牢獄の方がまだいろいろあるぞ。

「お前の最初の仕事は、まずはこの部屋を人が住めるレベルまで綺麗にすることだ。ナメた掃除してたらお前をゴミに出すことになるぞ」

厩舎でもなくゴミ捨て場行きになる可能性があるの?この人物騒すぎるんですけど。とは口に出さない。何故ならゴミになりたくないから。

「...あとはこれ、持っていけ」
 
リヴァイ兵長が廊下からこちらに腕を突き出している。頑なに部屋に入ろうとしないんだけど。もしかして潔癖症なの?
手のひらを出すように言われ、何枚かのお札と小銭をジャラジャラと受け取った。わあ、これがこの世界のお金か!

「掃除が終わったら、街に行って生活に必要なモン買って来い。暇そうな新兵を1人貸してやる」
「ありがとうございますっ!わーさすが兵長、太っ腹だなあ」
「何言ってやがる、給料から天引きだ」
「...」

あだ名が決まった。潔癖クソドケチ長って呼ぼう。


***


そうだ、いろいろあって忘れてたけど、あの日私を街に案内して買い物に付き合ってくれたのはライナーだった。
女性ものの下着屋さんで「どっちがいい?」と赤と黒のブラを並べて見せたら鼻血吹き出してぶっ倒れたんだ。顔面を床に強打したライナーは荷物持ちとしての役割を果たせず、私がライナーに肩を貸して馬車に乗せたんだ。

顔面ボロボロシャツ血だらけのライナーと私が兵団に一緒に戻ったことで、ライナーをボコボコに出来る人類最強の団長補佐が入団したらしいと噂が兵団内で広まった。入団初日にして鮮烈な印象を植えつけてしまった。

噂を否定したいところだったが、ライナーから「ブラ見て鼻血出したこと言い触らさないでください、ちなみに、黒の方がいいです」、と土下座されたので、仕方なくこの噂は今日までそのままにしている。

その日 私は思い出した ライナーに童貞とあだ名をつけたことを

ライナーのパンツを握り締める手に力がこもり、ビリッと音がした。あ、やべ、破れた。まいっかライナーのだし。お前のパンツも黒かよ。


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