百面相




「!」
「そんなの哀しすぎるよ…。
だって…」
「サナエ。行くぞ。」



言いかけた言葉は、童虎さんに腕を引っ張られて紡ぐことは出来なかった。
引きずられるように歩かされる。
その間、何度かアスミタさんを見た。




―――



「・・・・・。」



多分、いま彼女はすごい悲しそうな顔をしているのであろうな…。
見えた訳ではないが、彼女から感じた小宇宙が、ひどく哀しく感じた。


「・・・・サナエ」


アテナとは違う女神。
あったばかりのその存在に戸惑いながらも、どこか嬉しくおもった。
他人の事で、あそこまで悲しくなれる豊かな心の持ち主。
大地の様な、力強く、包まれるようなサナエの小宇宙が、自分を包んでくれた気がした。


「あなたと、もっと話してみたい」




―――


どんどん十二宮を下る。
本来であれば何か気を紛らわせることを言ったほうが良いのであろうが、
落ち込むサナエに必要なのは考える時間なのだろうと判断し、あえて何も発さなかった。


「童虎さん、私無神経でしたよね…」



ひどく哀しげな横顔。
自分の発言を後悔してるのだろう。


「気にすることはないじゃろう。
 サナエが思ったことをアスミタに伝えただけじゃ」
「でも…」
「もし気にやんだのであれば、今度会うたときに謝ればいい。
 そうじゃろう?」
「…そうだね」

無理に作られた笑いに童虎は気が付いていたが、何も触れずに笑顔で頷いた。
十二宮を下りきった二人は次の場所へと歩を進めた。


「ここは、闘技場じゃ。
 未来の聖闘士がしのぎを削っているんじゃ」


童虎が指さす方向には闘技場。
それと凄まじい音。


「ぇええーー!?」



隣でサナエが叫ぶ。
予想通りの反応に、ちょっと嬉しく思った。


「お主は百面相のようじゃな」
「ん、なんかいった?」
「いや、なんにもいっとらんぞ。」



含み笑いを見せないように、真正面を向いた。
本当に、面白い娘を拾ってきたのう。


――――


男性も女性もすごい速さと勢いで拳をぶつけあう。
離れていても伝わる熱気に気圧されそうになった。
こんなのが、本当にあるのかと思った。


「少年漫画の世界かよ!?」
「?」



漫画の世界の様な格闘。
やはり、ここは違う世界なのだと改めて思った。


「スゴッ!スゴォオオオ!」
「ハハハ、そうじゃろう!」


自分が言われたわけでもないのだが、なぜだか嬉しそうな顔の童虎さん。
うん、微笑ましいわ。


「どうじゃ?
 あそこに参加してくるか?」

楽しそうに指さす童虎さん。
悪意は感じないので、恐らく純粋に聞いているのだろう。
だが聞いてきた内容は全く穏やかではない。

「それは私に対する死刑宣告ですか?
 あんなの一撃でもくらったら死にますけど?」
「ハハハ!そうかのう!」
「普通そうですけど!?」



わかって下さい、あなたは普通じゃないのかもしれないけど、
私は普通の人間なんです!!!!






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