白昼夢

ふわふわと意識が漂う。
水の中みたいに体が軽いけれど、不思議と苦しくない。
何かがはっきりとわかったわけではなかったが、ここは夢の中であることが漠然と分かった。
しばらく自由に動ける夢を楽しんでいると、少し前に光が見えた。
か細い、それでいて暖かい光は蛍のように目の前を飛んでいた。

『いつか違う世界に行ってみたい、とか思ったことはない?』

白くて淡い光のなにかは問いかけた。
夢らしい問いかけなくせにやけにしっかりとした声は、思い出せないが聞いたことがない声だった。


「違う世界?」
『そう。違う世界。もしそこで今の君では出来ないことが出来るようになったとしたら…それは素敵なことだと思う?』

白い光はふわふわと私の目の前を左右にいったりきたりと揺れ動く。
違う世界。異世界。
ただ異なる世界に行くのではなく、自分にできないことができるようになる、という点を少し考えて同意する。

「ないって言ったらうそになるかな…。
 多分誰しも憧れるよね」

もし違う世界で違う生き方ができるのであればそれはまさにロマンある話なのだろう。
もしももっと違う自分になれたなら、と考えるのは人の性だと思う。


『そうだよね。
 とっても素敵なことだし、憧れるよね』


白い光から放たれる不協和音のような響きの声。
耳障りなはずなのだがどういうわけかいくら聞いても不愉快にならない。
不思議ともっと聞きたくなってしまう、そんな声だった。

『ありがとう。君の意思が聞けて良かったよ』

「…?
 私の意思って…」

『君の意思も聞けたことだし…迎えに行くね。
 きっと君も…あの世界のことが好きになるはずだから』

「ちょっとまってよ…話を…」

自分の声が遠くなっていく。
それに合わせて白い光も遠ざかっていった。
後ろに引っ張られる感覚に負けないように手を伸ばしたが―その手は何もつかめなかった。





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