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きみの未来を盗みにきました

何度も何度も考えた。

鳥口に意見も求めた。


『まぁ、色々言いましたけど僕に話そうと思った時点で、青木さんは腹くくってますから大丈夫っすよ。それが周りの意見よりも、何倍も重要でしょう』

共通の友人は話の最後にそう言って朗らかに笑った。

おざなりな綺麗事を言ってくれた訳ではないのは、予想される周囲の反発も口にしてくれていたことで分かっていたから嬉しかった。

この友人は本質を見失わない。

要は、どれだけ二人で居たいか。それだけの話だ。周囲の目だとか山積する問題は、常にそれと比較され、勝った方が残る。




この自分なりの覚悟というか願望を告げようと青木が決めたのは、桜の咲き始めた頃だった。

朝食を兼ねた早い昼飯を二人で食べに出た帰り道に、桜並木となっているその道へと益田を誘った。歩きながら考えたいことがあったから遠回りをして帰りたかったし、それに花見はきっと喜ぶだろうと思った。

考えは当たっていたようで、隣を歩く彼からは愉しげな様子が伝わってきていた。軽い相槌しか挟めない程、たくさん勢いよく話している。



どうしても今日のうちに言ってしまいたい。

今日言わなければ雲散霧消してしまいそうだから、だとかそんな理由ではなくて。もう黙っていられないといった方が近い。答えが欲しい。


声が聞こえなくなったと気がついて、ふと見れば、隣に益田が居なくなっていた。そんなことにも気づかぬ程考えこんでいたのかと自分に呆れながら立ち止まって辺りを見回す。

甘味処から包みを持って駆け戻ってくる姿を見つけて、そのまま待った。


「すいません、青木さん」
「さっき食べたばっかりなのに、まだ食べるのかい?」
「美味そうな匂いがしたんで」

満面の笑みに、こちらの口元も綻ぶ。

青木さんも要ります?と差し出された、みたらし団子を、ありがとうと言って受け取った。


「いきなり何処かに行かないでくれよ。驚くじゃないか」
「いや、声かけましたよ。青木さん、うんって言ってたじゃないですか」

まばたきを緩やかに繰り返す目を見て失言だったと気が付いた。適当に返事をしていたらしい。視線を逸らして無言で歩き続けていると、暫くしてから益田が躊躇いがちに口を開いた。

「青木さん、最近どうしたんです?ぼうっとしてること多いですし。春だからって困りますよ」
「別にぼうっともしてないし、春のせいでもないよ」
「じゃあ。何なんですか」


探るような視線を、まっすぐに見つめ返す。


「大したことじゃないよ」


聞かれたら答えるという約束を破るのは気が引けたが、誤魔化した。それに全てが嘘でもない。大したことではない筈だ。今日のうちに言おうとも思っている。



――――君と一緒に暮らしたいのだと、どんな風に告げようかと悩んでいるだけだ。本当に大したことじゃない。



胸の内で言ってみて可笑しくなり、少し笑った。呼び掛けにも気づかぬほど考えこんでいた癖に、と無様な自分が可笑しい。

「なんだか分かりませんけど、本当に大したことじゃなさそうですね。それならいいです、特別に」

益田が笑みを見て安心したのか、視線を前に戻していく。安堵した声で、団子は何処其処のが美味いだとか、そんなことを愉しそうに話しているのを、今度はちゃんと聞いて軽口も返した。

声をあげて笑う姿を眺めながら思う。

この想いを告げれば、なんと言って答えてくれるだろうか。きっと、迷いながらも最後には頷いてくれるだろうと思うのは自惚れが過ぎるのだろうか。


強く風が吹いた。桜の花びらが舞う。

綺麗ですね、と益田が八重歯を覗かせて笑った。

そうだね、と相槌を打ってから、串に残る団子を一気に食べた。



やっぱり、どうしても今日のうちに言ってしまいたい気分だ。

春のせいかもしれない。



洒落た言葉を言えないところが良いと、隣を歩く男が確か前に褒めてくれたことを思い出したから、もう言葉は直球でいこうと決めた。


―――下宿へと帰ったら言ってみようか。さりげなく。

あまりに正面から言えば、彼はきっと大真面目にとらえて思考の深みにはまってしまうだろうから。


これはもう作戦だ。

わざとさりげなく言っているのだとバレたって構いやしない。むしろ気づくといい。なんでもないことなのだという調子こそが重要だ。


なんでもないことのように日常を共に過ごせたら。



それをただ願っているから。






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