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あの頃の思い出は、私の中では大切な大切なもの。そして私は期待してしまう。
──明日は逢えるんじゃないかって。

けれど、現実はそう上手くできていなくて落胆する毎日。チェーンに通した小さなリングだけが、淡い期待を裏切らない。


「千代はぼくのおよめさんだから」


そう言って、私にくれた小さな指輪。幼い私にはぴったりのサイズだったけど、成長するにつれてはめられなくなってしまった。はめられなくても、ネックレスにはできる。私はずっと、この指輪を身につけていた。

このリングをくれたなぎちゃんは、親の転勤で引越ししていった男の子。なぎちゃんとは日が暮れるまで二人でよく遊んでいた。一緒に川ではしゃいだり、木登りしたり、おままごとをしたり。

引越しすると聞いた時は、突然すぎてびっくりして動けなかった。それからずーっと泣いて、別れる時まで泣いていて、その時にもらった指輪。


「またあえるよ。千代はぼくのおよめさんだから」


それがなぎちゃんとの最後の言葉──

あれから11年ぐらいは経った。なぎちゃんは、もう私のことなんか忘れてしまっているだろうか。それでも、私はなぎちゃんが来るのを待ち続けようとしたけれど──。

親の転勤。それは前々から決まっていたようで、私に話すタイミングがなかなか掴めなかったそうだ。私だけこの町に残ることも出来ず、私は両親と共にこの町を去った。


転校初日。私は私立緑ヶ丘高等学校に編入した。男女共学で、お坊ちゃまやお嬢さまがたくさんいらっしゃるような学校に──あの人がいた。

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