1/10

 いつの間にか私は感情が乏しくなってしまった。それは過去にイジメや両親の離婚などあったからなのかもしれない。

 それっきり泣いてない所為か
“悲しい”
という感情がどういうものか忘れてしまった。




 犬の散歩で公園へ行くと私と同い年くらいの少年が悲しそうな表情で地面を掘っていた。

 よく見てみるとその少年は泣いていた。


 見た目高校生ぐらいの年頃なら感情は多少制御出来るだろう。それ程悲しい出来事が彼の身に起きたのだろうか。

 それにしても男が泣くぐらいなのだから、きっととても悲しいことが起きたはずだ。

 私は犬を連れて少年の横を通りすぎていく。


「ワン!!」


 その時私の犬が何かに反応して吠えた。少年は吠えられたことにびっくりして地面へ何か落とした。

 彼が落としたものは鳥の死骸だった。


 成程、鳥が死んでしまったから泣いていたのか。
 ──ってそんな事で?

 どう見てもインコではなく文鳥でもなくそこら辺を飛んでいる雀だ。

 何らかの形で死んでしまったこの雀を哀れんでコイツは泣いているのか。

 雀の死骸を食べてしまいそうな勢いで突っ込もうとする犬のリードを引っ張る。


「す、すみませっ、この犬好奇心旺盛なもので」

「いいんだ。この鳥はもう、死んでいるから……」


 落ちた雀の死骸をまたスコップの上に乗せて掘った穴に入れた。

 少年のナミダが次々と流れていく。雀に土を被せ終わると祈りを捧げた。

 泣き続ける少年を見て思った。小さな事でも泣ける人の心は純粋で優しい、と。でも男がそこまで泣くのもどうかと思う。

[ 61/131 ]

[*prev] [next#]
[しおりを挟む]
[mokuji]