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 今日の授業が全て終わり、早速返ってきたテストに少しだけ気を落としながら廊下を歩いていた。


「峰岸っ!」


 声がした方へ振り返ると豊羽が走ってきた。


「何?」

「今日このあと暇?俺と一緒に映画観ない?」


 私は思わず顔をしかめた。
 でもコイツはお礼にと思ってこうやって誘ってくるのだから悪気はないんだろう。付き合ってもいない男と二人きりで映画なんて──とそこまで思ってやめた。

 純粋にお礼がしたいだけ。豊羽はそういう奴だ。


「いいよ」






 豊羽が選んだ映画は子犬が出てくるお話だ。CMでも少し観たことがあるが、感動系の物語っぽい。

 私は特に観たい映画がなかったので豊羽に選んでもらった。多分豊羽は最初からこれが観たくて私を誘ったのだろう。パンフレットまで買っていたのだから。

 来たまでは良かったが上映の途中で寝てしまった。けれどもラストの方だけはちゃんと観た。

 あちこちから鼻をすする音がした。隣に座っている豊羽も、号泣しながら観ていた。


「いやー超感動した。あれは傑作だな」


 場所は変わってファミレス。映画を観たらバイバイかと思っていたら、食事もご馳走してくれるらしい。何だかこのままだと申し訳ないので割り勘することにした。

 これじゃあまるっきりデートじゃないか。そう思うと変な気持ちになってくるので記憶の隅に追いやった。


「峰岸はどうだった?あのハナすげぇよな。離ればなれになった家族へ会いに走り続けて。

でも力尽きて死んじゃうんだよな……あと少しで会えたのに」

「あ、ああそうだね。もうこの話しはやめにしよう」


 また泣きそうになっていたので映画の話を切る。こんな所で泣かれると他人からは私が泣かせたと勘違いされてしまう。

 豊羽は「悪い」と言うと落ち着かせるために水を一口飲んだ。


「でさー、もうちょっとお礼がしたいんだけど」

「え?も、もう充分だよっ!?だからお礼なんか」

「いや!これじゃあ俺だけ楽しんでいるだけだ。だから、さ?」

「と言われても……」


 私が困惑した表情を浮かべると豊羽はうーんと悩み出す。しばらくすると良いことを思いついたらしく笑顔をこちらに見せてきた。

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