2/5 僕は慌てて本を拾おうとしたら、本の近くに誰かの足があった。顔を上げるとさっき僕を嫌な目で見ていた女性だった。 「へぇ、こんなの読んでるの」 黒髪でさらさらのショートヘアが流れて僕が落とした本を拾った。ちょっと気が強そうな女性だ。その女性は拾った漫画をパラパラと捲り出した。 え、ちょっと待って!女の子がそんなの読んじゃ引かれ‥‥る‥‥って!! けれどそう簡単に彼女から本を奪い取ることが出来ない。無理です、そんなこと。 つくづく僕ってヘタれだなぁと実感してしまう。彼女は黙ってその漫画を読んでいる。しばらくすると何でもなかったように僕に渡した。 「結構面白いじゃん。はい」 唖然とした。てっきり引かれるかと思った。彼女は漫画を渡すとスタスタと違う所へ仕事をしに行ってしまった。 間を空けてはっと我に返る。そうこうしてる内に時間は過ぎていってしまうんだ。読みたい漫画を集めて早く読もう。 その日は彼女と少し関わっただけで他はいつも通りに充実したマンガ喫茶ライフを過ごすことが出来た。 * 目にはコンタクト、髪にはワックスを。よし今日の僕もイケテる。今日はちょっと腰パンというものに挑戦してみよう。 僕は制服のズボンを少し下げてみた。だがやはり慣れていないので気になってしまう。何度もやってみた結果、ほんのちょっとだけ下げて徐々に慣れていくことにした。 「ちゃーっす立川!」 「お、おうっ」 会話は何度も脳内でシュミレーションしたが実際に声を出してみると緊張してしまう。いつもの癖で堅い言葉になってしまいそうだ。 「あのさ昨日のドラマ見た?」 その話題に僕はびくっとした。しまった、昨日から始まった新アニメしか見ていない。ニュースなら多少いけるんだけどな……。 どう言葉を返そうかと周りに視線を泳がすと、どこかで見たような人が机に座っていた。 「あの子、誰?」 黒髪でさらさらのショートヘア。ああ!マンガ喫茶で働いていた人だ!まさか同じクラスだったなんて。 僕の質問に声をかけてくれた人(確か杉田くん、だったかな)はちゃんと答えてくれた。 「あー、何かこのクラスの室長らしいよ。刈谷莉緒さん」 「へぇ‥‥」 [しおりを挟む] [mokuji] |