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「ごめんなさい……。私も、あと少しなんです」


英明の目が見開く。さりあは心配しないようにと微笑を見せて、彼から離れ一人でその場に立つ。


「そんなこと‥‥‥‥こんなのありなのかよ。やっとアンタと話せたというのに……っ!」



切なくて苦しそうに哀しみの表情で訴える。さりあはそんな英明の腕を掴んで静かに首を横に振る。


「そんな顔をしないで下さい。私は貴方に友達になりたいと言ってくれただけでも嬉しく思います。

──一つだけ頼みたいことがあります。年が明けたらまたここに来てくれませんか」


さりあが頼んだ事柄は一緒に初詣をしてほしいということだった。

時間があっという間に流れていくようで、約束の日が来た。待ち遠しかったけれども、先のことを考えてしまうと複雑な心境だった。

いつもよりおめかしをしたさりあは英明の視線を釘付けにした。しばらく見ない間、少し痩せたような感じもした。

近くの寺や神社へ行って参拝する。一通り参拝した所でさりあはお礼を述べた。


「私のわがままを聞いてくれてありがとう」

「んなのわがままにはならねぇよ。他に行きたい所があれば一緒に行ってあげるけど」


「ううん。これで充分です」


嬉しそうに心から満面に微笑む。それから静かにそっと英明と距離を詰めて抱き締めた。一瞬何が起きたのか分からなくて彼の心臓は止まりそうだった。


「ありがとう」


抱き締めながらこちらを見上げて、端麗な笑顔をもう一度見せる。彼は涙が出そうだった。優しいその瞳が彼の心を大きく揺さぶる。


 佐藤を‥‥、さりあを離したくない。
 ここで別れたらアンタはもう‥‥‥‥。


「──じゃあ」


彼女は簡単に彼から離れて別れの言葉を言う。気付けば迎えが来ていたようでさりあの母親と会釈を彼はした。

もっともっと言いたいことはたくさんあったし、たくさん想い出も作りたかった。引き止めたくても、彼女の背中は、これ以上引き止めないでと言っているようで彼はその場から動けなかった。

さりあは車の後部座席に乗って窓から英明を見詰めて、最後の微笑をした。
彼も目に一杯涙を溜めながらも、笑顔を見せた。







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