5/6 健吾は手を止めることなく作業を進める。慣れた手付きで本を片付けていく。 「行った」 「何時間目の時に…?」 「3時間目」 「その時に私ベッドで寝てたんだけど、知ってる…?」 「知ってる」 すると健吾は里夜と唇を重ねた。目を丸くしている里夜を見て健吾が微笑む。 ──あっ、この笑顔あの時の……! 「やっぱり眼鏡は邪魔になるな」 眼鏡を外した健吾の顔は保健室で会ったあの人そのものだった。 余裕に満ちた微笑みでこちらを見る健吾に里夜は憤りを覚える。 「な、何で勝手にキスなんかするのよ!?そういうのは普通許可を得てからってもんじゃないの!?」 「じゃあしてもいい?」 再び近付いて里夜を見下ろす。里夜の顔がみるみる真っ赤になる。 「……っ!」 何も言えなくなる里夜に対して健吾は楽しそうに笑い、里夜の髪を撫でながら指に絡めてもてあそぶ。 「嫌じゃないんだろ?」 悪戯を含んだ笑みで言われて里夜の顔が益々赤くなる。 優等生だと思っていた健吾がこんな性格だったなんて信じられない。 そして里夜の頭を両手で包み込まれてまた口付けされた。今度は優しく長かった。 唇が離れると香水の香りがした。これで保健室で会ったのは間違いなく彼だと核心した。 「……どうしてこんな事するの」 「好きだから。…あの時の寝顔がとても可愛くてキスしたくなるような顔してたから。‥‥悪い?」 里夜は恥ずかしくなって俯く。暫く静かな空気が流れてから健吾が言った。 「俺、コンタクトだから」 この眼鏡はファッションなと言いながら笑顔を見せた。里夜も釣られたように微笑みを見せた。 健吾はあの時の事を思い出していた。 > [しおりを挟む] [mokuji] |