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「千代に触るな!」


ガタンッと大きな音を立てて、机やイスが倒れた。幸弘くんは痛そうにして、口の端を押さえた。たった今、何が起きたのか、思考が追いつかなかった。


「やっぱり、コイツが好きだったんだな。俺は知ってるぜ。コイツに何度も話しかけようとして、躊躇しているのを」

「…!」


私はその言葉に反応して、なぎちゃんの方を向いた。なぎちゃんは無表情だったけど、私と目が合うと優しく微笑した。


「ああ。千代は僕の女だから」

「ハッ、くだらねぇ。まぁこれでやっと、お前がここから消えてくれるな」


倒れた机を支えにして、幸弘くんはよろよろと立ち上がる。嬉しそうな、けれども見下すような笑顔をしながら教室から出て行った。

すぐさま、なぎちゃんは私を抱き締めた。突然のことで、私はなぎちゃんを見ることしか出来なかった。


「ごめん、ごめん‥‥!臆病な僕でごめん。これ以上、千代と離れたくなかったんだ」

「なぎちゃん…」


なぎちゃんからその言葉を聞けただけで、自然と涙が零れた。なぎちゃんも、私と同じことを考えていてくれたんだ。


「千代を忘れたことなんて、一日もないよ。ずっと千代のことを考えていた。千代がここに来てから、眠れない日が多くなった。

何度も話しかけようとしたけれど、話してしまったら触れたくなるから…。もう、千代と離れたくなかった」

「私も、なぎちゃんと離れたくなくて、話しかけるのを躊躇ってた」

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