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日々が過ぎても、なぎちゃんは相変わらず冷たい人だった。無言で私とすれ違う。
ここに来て、初めて話しかけられた言葉は

「加賀さん、先生から」

だった。なぎちゃんが私の机に紙を置いて、どこかに行こうとする。目を合わせようともしないなぎちゃんの腕を掴んで、向き合いたかった。

“転校させられてしまうの”

彼女の言葉が私の動きを止める。これ以上、なぎちゃんと離れたくない。これ以上、近付いちゃダメなんだ──。

学校は苦じゃない。友達もたくさんできた。けれど、クラスに一人だけ妙に浮いているなぎちゃんが、私の気がかりだった。


「加賀さん」

「なに?」


私に声をかけた人は、見るからに優しそうな男の子だった。なぎちゃんから視線を外して、彼に向ける。この人は、松下幸弘くんだ。どこか昔のなぎちゃんに似ていて、嫌いではなかった。


「今度一緒にどこか遊びに行かない?友達と一緒でもいいからさ」


私はもう一度、窓の外を眺めるなぎちゃんを見た。視線が合うことはない。

この恋は、二度と叶えられないのかな。ずっと待っていたけれど、諦めるべきなのかな。


「うん、いいよ。二人で行こう」


笑顔を浮かべて、私は明るく返事をした。

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