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妙に色っぽく微笑む亨くんに、私の胸が大きく高鳴った。心臓が、とてもうるさい。
亨くんは私からゆっくり離れると、唇を拭った。


「ごちそうさま」


その姿がとても色っぽくて、何もしてないのに恥ずかしくなってしまった。周りのみんなは、さっきよりかなり盛り上がっている。


「随分濃厚な口移しだったな、亨!」

「良かったねー留奈!大好きな朝比とチュー出来て!」


かぁあと顔が熱くなる。本当にキスした訳じゃないのに、何だろうこれ。ひとまず、トイレに逃げ込もう!
私はそそくさと部屋を出ていった。

トイレはどこだろうとキョロキョロ辺りを見渡していたら、急に腕をつかまれた。顔を上げて見れば、亨くんだった。


「こっち」


そう言われて、腕を引かれるまま私は亨くんについていった。
カラオケ店から出ていって、ずんずん歩いていく。ある建物を見つけると、その中に入っていった。

廃墟のビル。少し錆びれた階段を上がって扉を開けたら、綺麗な景色が広がっている屋上だった。


「わぁ……キレイ。こんな場所、あったんだ」

「俺のお気に入りの場所なんだ」


亨くんは私の腕を離して歩いていく。柵に手を置いて、景色を眺めた。風が吹き抜けていく。

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