60.騙す(ニオジロ) | |
「俺、仁王くんのことが…」 今目の前で頬を染めながら俯いている彼は、氷帝の芥川。 元々ブン太を見たいが為に立海へ来ていたが、どうやらうっかり俺に惚れてしまったらしい。 そういう恋愛関係の勘も昔から良かったから、初めて話しかけられた時、既にそんな気はしていた。 正直、気持ち悪い。 男が男を好きになるなんて、あり得ない。 それに芥川がブン太に惚れるならまだしも、こんないい加減な雰囲気醸し出してる俺なんかのどこがいいんだか。 「…………」 「仁王くんのことがね、好きだったよ…」 「え…」 過去形? 俺はてっきり好きなんだって言われるかとばかり思っていたから、思わず間抜けな声が出てしまった。 「ごめんね、気持ち悪いよね…」 「いや、ていうか好きだった、ってどういう意味?」 「あ…うん、自分でも男が好きだなんて気持ち悪いなって思ったから、諦めようとしたんだけど、その前にどうしても言っておきたくって…」 すごく恥ずかしいだろうに、わざわざ説明させる俺は鬼か…なんて思いながらも芥川の言葉に耳を傾ける。 「芥川の気持ちって、そんな簡単に諦められるもんなんじゃな」 「…え?」 「男だからとか、そんな理由で簡単に諦められるような"好き"だったんじゃな?」 「………違うよ。でも、こうでも言っておかなきゃ俺、ずっとずっと仁王くんのこと好きでい続けると思ったから」 頭の中で黒い何かがぐるぐると渦巻くような気がした。 何だそれは。 それは、俺の気持ちを無視して自分だけ納得してはい、終わりってことか。 そんなんだったら、告白なんてされない方がマシだった。 好きでいてくれててもいいから、そんな、身勝手なことをしてほしくなかった。 何でこんなに悲しいのか、俺にもわからない。 でも今は、どうしようもなく悲しい。 「……俺は、俺んこつちゃんと見てくれる奴に好きになってもらいた……っ」 「にお…うくん?」 「何でもないき、忘れんしゃい」 「俺は、ちゃんと見てるよ」 「え、」 「俺は、今までずっと仁王くんしか見てこなかったよ」 芥川はそう言って、笑いながら涙を一粒溢した。 そして、逃げるように走って去っていった。 「好きだったなんて、言うてくれんかったら、こんな気持ちにならんで済んだのに」 『好きだった』と言われて傷ついた辺り、俺はもしかしたら芥川のことが好きだったのかもしれない。 騙す (自分の心さえも偽ってしまう) 120702 お題に添えてねぇぇ^q^ |