恋する動詞111題 | ナノ

33.放す(日跡)



「別れましょう」



この言葉を口に出すのに、どのくらい時間がかかっただろうか。



跡部さんはスラスラと部誌を書いていた手を止めた。

少し見開いた目でこちらを見てきた。


その向けられた蒼い瞳には、何度見ても吸い込まれそうになってしまう。


自分でも良く分かっている。

こんな綺麗で頭の良い、好きで好きで堪らない人を手放すなんて可笑しいと。


だけどこのままじゃダメなんだ。
このままじゃ、俺はいつまで経っても貴方を越えられない。


付き合う前からずっと焦っていた。
只でさえ、年の差という壁があるのにテニスの腕も越えられない……俺は何て未熟なんだと。



「すみません、俺のワガママなんです」



だから好きなだけ殴ってくれても構わない。


跡部さんとの関係を断ち切って、貴方に認められるような…そんな男になったら。


きっとその時は、




「…待ってるからな」


「えっ」


「お前が納得してまた俺のとこに来てくれるの、待ってるから」


そう言われた途端に身体が勝手に動き、気づいた時にはもう彼を腕の中に収めていた。


「ごめん、最後に少しだけ」



そんな情けない俺を少し困ったように笑う跡部さんは、やっぱり誰よりも綺麗で誰よりも俺をわかってくれる、そんな大切な存在。




放す

(信じて、待ってて。)




120303



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