恋する動詞111題 | ナノ

31.隠す(春ユウ)



『何でユウくんはウチが好きなん?』



いつだったか、そんな質問を投げ掛けたことがあった。

どんな答えが返ってくるかなんて全く想像していなかった。

けど、どんな答えだってウチの気持ちはずっと前から決まってる。

これからもずっとその気持ちだけは揺るがないと思う。














「……でな、相手がこう来ると。
そしたら……小春?」


「…あぁ、ごめんねぇ。ボーッとしとったわ」


「珍しいな、熱でもあるんとちゃう?」


「おおきに。大丈夫やで」


心配そうに覗き込んでくるユウくんに笑いかける。

ウチをこないに心配してくれるんも、アンタだけやわ。




せやからそんなユウくんをこれからも、大切にしたい。





「ちょっと、昔のこと思い出しとって…懐かしかったわあ」


「昔…?」


「ユウくんに、何でウチが好きなん〜?って聞いた時のこと」



それを聞いた瞬間、ピタッと動きが止まった彼に改めてちゃんと向き合う。


あの時



『小春は俺に持っとらんものを持っとるから、最初は羨ましくて仕方なかった。
けど…だんだん尊敬するようになって好きになっとった。

なあ、小春はほんまに俺が嫌いなんか?』



って、いつになく真剣な顔で聞いてくるもんだから呆気にとられて、ウチはちゃんと返事ができんかった。


だから少し遅くなったけど、今から返事させてほしい…そんなウチの気持ちが、ちゃんとユウくんに伝わったらしい。


「ウチな、考えたんやけど…」

「すまん小春、ちょっと待って…ごめん」


まだウチは何にも言ってないのに、もう泣きそうな顔して…ほんまにユウくんには敵わんわ。



「ウチはユウくんと、お付き合いはできひん」

「…うん」

「何でか、わかる?」

「わからん」

「…男だからとかやなくて、ユウくんがウチを好きな気持ちはきっと恋じゃないから」

「ちゃう…俺、小春のことちゃんと好きやで」

「せやからそれは、憧れとか尊敬。その気持ちがたまたま他の人より強かっただけなんや」

「…そんなことない。うっ…」

「自分でも、もう気づいとるよね?」


とうとう泣き出してしまったユウくんの背中を擦りながら、自分の身体の奥が締め付けられるような感覚に耐える。




「ウチ、ユウくんとは恋人になれんでも一番の友達にはなれると思うんよ」

「とも、だち?」

「せや。親友になってほしいんやけど、あかん?」


まだ目に涙を浮かべた顔をパッと上げた彼に、訊ねる。


明るくてウチの大好きなユウくんの笑顔が勢いよく縦に振られた。


その時、一粒だけ涙が頬を伝ったような気がした。









知ってしまったから、気づいてほしかった。


ウチのこと本当に好きなんじゃないって。


けれどもうウチはユウくんが好きやった。

好きだったから尚更、幸せになってもらいたいから、辛いのは今だけだから。




どうかいつか最高に幸せな君の姿が見れますように。






隠す

(君に気づかれないよう、ずっと仕舞っておくね)


120228



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