榛名/お前は、月 1


!注意!

死ネタとなっています。

いきなり主人公が死んでしまうので、苦手な方はBACKしてください。






昨日、秋丸から電話がきた。

やっと調子を戻して、前ほどじゃないけどボールを投げれるようになって。

明日学校に行こうと思ってたのに、中止になった。




名無しが、死んだ。





線香の『匂い』が漂う。



マジくせぇ。


目の前には黒ばっか。

たまに白。


あぁー、マジくせぇ。


写真の額に入ってるのは、あいつの顔。


笑ってんなぁー、あいつ。


確か、あの写真。
俺が出た最後の試合。
初めてパーフェクトで終わった試合。

名無し、はしゃぎまくって、ベンチのフェンスから転び落ちて。

ヒザ擦りむいて、
痛くて泣いてるのか、
喜んで泣いてるのか、
わからないくらい泣いて。

俺が駆け寄って「なんで泣いてんの?」って聞いたら、「教えない!」って言いやがって。


俺が最初に「ヒザが痛ぇ」ってこぼしたら、あいつ「すぐ病院に行ってきな!」って言われた。
けどマウンド譲りたくないし、何よりあいつに俺のカッコいいところを見せたかった。


しばらくたって、病院にいった。
二つの病院周って、診断結果は半月板損傷だった。
診断書を渡されてから、俺はクサっていった。


自分でもわかるほどに。


学校には行かなくなって、1日中部屋にこもって、両親とも話すことはなくなって。


"最低な自分になった"と


自覚した。






参列する中に名無しの両親はいない。
親族は名無しの7歳離れた兄貴だけ。
両親はいない。


なんでだ?


「おう、元希」

「……大悟さん」

「お前、大丈夫か?」

「…………はい」

「名無しは死んだ」

「…」

「ただ、それだけだ」

「…っ……」


なぁ、名無し。
俺はお前にずっと見守られてた。


お前は『月』だ。


昼は太陽の影から、夜は闇の中で光り輝いて。


ずっと見守っていてくれた。





「こんなとこで何やってんの?」

「名無しか」

「じゃなくて、みんな筋トレしに行ったよ。行かなくていいの?」

「いいの。今日は俺筋トレしない日だから、ダウンだけ」

「ふーん、そうなんだ」

「お前、行かないのかよ」

「あっちには涼音先輩が行ってるから大丈夫!」

「ふーん…」


いつもそばにいた。


俺が部活に馴染めないからってずっとそばに。
あいつと仲が良かった秋丸と組むようになって、いつも3人でつるんでた。
試合が終わってしばらく大会はないから、大きな病院にこっそり行って検査した。


それでああいうことになった。


なんで俺なんだよ。
俺がいなきゃ、試合勝てねぇだろ!?


俺は毎日、毎日リハビリだけした。
辛くても痛くても、早くマウンドに立つために。


あいつも毎日、毎日俺の家に来た。
別に家が近いわけじゃないのし、部活が終わってからだから遅い時間になるときもあった。
居留守をして、尋ねてきても追い返した。
家に来るようになって3日間はすぐ帰っていった。
しかし、その次の日から手紙を書いてくるようになった。


その手紙には、学校であったこと。
秋丸と話したこと。
部活であったこと。
テレビの見て笑ったこと。
テストが最悪だったこと。


いろいろなことが書いてあった。


そのうち、名無しは母さんと仲良くなって家に上がりこむようになり、俺の部屋の前に座り込んでドア越しで俺に話しかけてくるようになった。


一方的にだったけど。


嬉しかったんだ。


1ヶ月たっても名無しは、俺の家に通い続けた。
部活の仲間に「シニアの行け」って勧められて、俺も通い始めた。
名無しには言わなかった。
言ったら絶対ついてくるし。

シニアでは、1つ年下の阿部っていうキャッチャーと組んだ。
背小っちぇし、細いし、ケンカ売ってくるし。
気の強いヤツだった。


家に帰ると玄関で名無しが待ち構えていた。


「何で言ってくれないのよ!」

「は?」

「シニアに通ってること!」

「いちいち、何で言わなきゃいけねぇんだよ」

「心配してるからに決ってるじゃない」

「俺は心配してくれなんて一言も言ったことねぇ」

「なによそれ!」


「うっせぇんだよ!!!お前、俺の何なんだよ!!マジうぜーよ!!」


俺はそのまま部屋に飛び込んだ。


あの時の名無しの傷ついた顔は忘れられない。
なんであんなこと言ってしまったんだろう。


目に涙を浮かべて、溢さないように頑張って唇を噛んで。


もう、あいつは来ないだろう。


そう思っていたのに、また家に来た。
しかも最初の一言が「ごめん」だった。



「ごめん、榛名。昨日は言い過ぎた」


確かにそうだよね!
心配してなんて榛名は言ってないのに。
私が勝手にしてることなんだよね!
迷惑なのはわかってる。
だけど、それじゃ私の気がすまないんだ。
同情なんかじゃないから、それは信じて。
我侭なのはわかってるこけど、返事もしなくていいから。
私が一人でしゃべってるから気にしないで。


「……」


馬鹿だろ、こいつ。


シニアのことは、やっぱり母さんが話してた。
最低限会話はしないから、秘密にしろとも言わなかったし。


なのに、なんでこいつココに居るんだ?


「お前…」

「あっ、榛名!シニアの子って思ったよりたくさんいてびっくりしちゃった!」

「…なんで」

「なんでって、ここに通うんでしょ?」

「…」

「私、榛名の専属マネジなったの。だからどこへでも行きますとも。見てるだけだから……邪魔って言わないで?」

「…」


練習が始まって名無しは、フェンスの外からずっと見ていた。
"阿部"という"的"に向かってボールを投げているところも。

       

続く             

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