慈朗/時を隔てて愛を語る





私はテニスしかいらない。


テニスだけでいいの。






「跡部と約束したの。跡部財閥のトップに立った時、婚約は解消。そうすれば、誰も文句は言えないし。私はテニスで生活していけるよう自立する。援助がなくても一人で生きて行けるようにね」




「だから、ある程度の自由は私にはあるのよ」




親が勝手に持ってきた縁談。
いくら断ってもイタチゴッコ。


自分の子供の夢くらい聞いてよ。


子供は親の道具じゃない。


馬鹿な親。






「跡部くん、でしょ?ちょっと話があるの。決してあなたにとっても悪い話じゃないわ」




だったら、こっちにだって考えがある。




「私と契約しない?」











快晴。


雲ひとつない澄みきった空。




「慈郎といると落ち着く」

「俺も」

「なんだか気分がふわふわするの」

「俺も」

「慈郎、好きだよ」

「俺も好きだよ、名無し」


現実から遠ざかるため、夢の世界へ一緒に行く。
名無しのためなら、どこまでも一緒に。

俺の大事な人の、大事な人だから。








「……あれ?」


夢から目覚めるとなかったはずのブランケットが掛けてあった。


「名無し。そろそろ起きないと、練習遅れちゃうよ?」

「んー…」


太陽の光慣れないのか、パチパチと瞬きをしている。
しばらくすると体を起こし、腕を目一杯空に向けて伸ばした。


「もう、そんな時間?」

「うん」

「慈郎に起こされるとは。疲れてたのかな」

「名無しは頑張り過ぎるから」

「そんなことないよ……ん?」


立ち上がった時、体から落ちたブランケットの存在にやっと気づいた。


「これ、慈郎がしてくれたの?ありがとう。気が利くのね」

「へへっ、でしょ?褒めて褒めて!」

「えらい、えらい」




名無しは気づいてない。




本当のブランケットの持ち主に。




でも、俺は知ってる。




「跡部でしょ?これ」

「何のことだ」


しらばっくれたって。


俺は、知ってる。


「俺、名無しのこと好きじゃないよ」

「いきなり何言ってやがる」

「跡部の好きと俺の好きは違う」


よく言うじゃん?


“Love”と“Like”の違いって。


「俺は、跡部の好きな人を好きにならない」


「跡部も名無しも、大事な友達なんだ」

「……」


だから、お互い苦しんですれ違っていく。


「本当に手放すの?」

「それが名無しの願いだ」

「意気地無し」

「…んだと?」

「跡部がそんなだと、名無しは誰か違う男に連れ去っちゃうよ?それでもいいの?」

「名無しが幸せになれるのなら構わねぇ」


跡部の口からそんな言葉が出るなんて


「ガッカリだよ」


俺が知ってる跡部は


「俺が幸せにしてやる!って言うと思ってた」


あの頃の跡部はどこに行っちゃったの?


「今の跡部は、嫌いだよ」

「……」


なんか言い返してよ。

そんな跡部を見るのは、辛いから。


「あ、そうだ」

「っ、何しやがる!」

「名無しから。『えらい、えらい!』だって」


名無しが俺にしてくれたように、跡部の髪を撫で回す。


「俺はずっと跡部と名無しの友達だから」

「さっき嫌いって言ったろ」

「そうだけど。でも友達なの!」

「ハッ、矛盾してやがる」

「それでもいいよ。俺はずっと傍に居るから」

「慈郎に慰められるとは、俺様も落ちたもんだぜ」

「だいじょーぶ!俺が引っ張り上げてあげるから」

「ありがとよ」

「……跡部にお礼言われるの、キモチ悪い」

「うっせぇ。お前はさっさと帰れ」

「え?」

「用事が出来た」

「名無しならいつもの場所だよ」

「ありがとな、慈郎」

「なんのこと?俺は言いたいことを言っただけだCー」

「あぁ、わかったよ」


そう言って一段飛ばしで階段を駆け上がって行く跡部の後ろ姿を見たら、なんだか笑えてきた。
跡部を走らせる人なんて滅多にいない。




「幸せになってね」




翌日。
いつも通り跡部の車で二人は登校してきた。
お互い目も合わせないし、手も繋いでない。
周りから見たらおかしなカッブルだと思うかもしれないけど、それは昨日までの話。
俺にはわかったよ。
明らかに周りの空気は、変わっていたこと。




優しくて温かい、二人だけの世界に。




END


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