卓に着く彼の後ろに座る。勿論なまえは麻雀を知らないから黙って見てるだけ。ふ、と対面に座るアカギと目が合ってぺこりとお辞儀をするとほんの少し口角を上げて笑った気がした。

***

「そういやなまえ、お前この人と知り合いなのか?」

先程会った時の事を思い出す。名前、覚えててくれたんだ…

「だから、この前怖い目に遭った時に助けてもらったって言ったでしょ。アカギさんに」
「そうだったのか。いやぁ、アカギさん?ありがとうございます。すいませんね、ウチのなまえがご迷惑かけて」
「…別にアンタにお礼を言われる理由は無い。それに」

彼女から"お礼"はたっぷり貰ったから

「え、お礼って」
「ククク…」

面白そうに笑うアカギは何故か言葉の端々に意味を含んだような言い回しで答えた。なまえは別段疚しい事はしていないからそのまま伝えてくれても良かったのに、と思ったけれど、もしかしたら気を使ってくれたのかもと良い方に解釈する。

「それよりアカギさん、麻雀強いんだなあ」
「…アンタが弱いだけ」
「かぁ〜!手厳しいな。ね、今晩はここいらで切り上げて一緒にどっか飲みに行きません?」
「ちょっ、アカギさんの都合もあるんだから、無理言わないで」
「いいよ」
「よし!じゃあ行きますか」

何となく人付き合いをあまり好んでしなそうだと思っていたなまえはアカギがひとつ返事で承諾した事が意外だった。

「アカギさん、すいません。無理に誘って」
「別に…」

二人よりだいぶ先に歩いている男は「早く、早く」と手を振って急かす。三人は近くの酒場に入ると夜が更けるまで飲み続けた。

***

「もう飲めねえ〜」

ふらふらと覚束無い足取りの男を支える彼女はいつもみたいにぺこぺこ頭を下げてすいません、と謝った。

「じゃあこれで失礼しますね。今日はご馳走さまでした。こっちから誘ったのにお勘定まで…」
「なまえに払わせる訳にはいかないだろ」
「…ありがとうございます」
「でもさ、彼氏、そんな状態で連れて帰れんの」

俺が手伝うよ。家まで送ってく

「そんな、申し訳ないです…って言いたい所ですけど…今は素直にお願いしようかな」

肩を組んで二人で支えるように歩いていく間にぽつりぽつりと他愛もない会話を交わす。そうこうしているうちにアパートに辿り着いてドアを開けると転がすように中に放り投げた。

「本当にありがとうございます」

酒の所為で仄かに赤く染まった頬が何とも可愛らしい。その姿にまた、初めて会った時のように胸がざわざわして煩くなった。けれど、潤んだ瞳が映すのはあの男だ。あのくだらない…

アカギは心中で毒づいたが普段と変わらない表情ではそれを推し量る事は出来ない。

「今度、遊びに来るよ」

なまえの家、わかったからさ

「あ、はい、是非!いつでも来て下さいね。精一杯おもてなししますから」

それは社交辞令ではなく、なまえの本音でもあった。まだ数回しか会った事はないけれど、あの時は本当に助かったから命の恩人と言っても過言ではない位に恩義を感じていたのは事実で。

「おやすみ」
「おやすみなさい」

月の光を浴びたアカギの髪が白く輝いて風に靡く。その後ろ姿が見えなくなるまで見送ったなまえは、何か得体の知れない予感を感じていた。

警鐘

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