闇を秘めた瞳



糖度ゼロ。偽アカギの彼女

***

あの日、平山の傍に居た女の瞳が忘れられない。艶やかな黒髪を靡かせて愛しそうに寄り添う姿が印象的で。

力強く、俺を射るような視線

「何?アンタ俺に言いたい事でもあるの」
「……別に無いわ」
「なまえ、あっちに行ってろ」
「でもっ、幸雄さん」
「良い子で待ってな」
「……はい」

平山の背中にしがみついていたその手をゆっくりと離すと項垂れたまま部屋を出て行く女が通り過ぎた後、ふわりと香る石鹸の匂い。

「ククク…あの女、随分アンタにご執心なんだな」
「っ!なまえは関係ないだろ」
「じゃ、あっちの部屋で待たせてもらうか」

くつくつと笑いながら立ち去るアカギを苦々しく思う平山は小さく舌打ちをして煙草に火を点けた。

***

「ここに居たんだ」

先程の広間から少し離れた和室に座るなまえの瞳が揺れる。狼狽える彼女の隣に座り、見つめ返す。

「アカギ、さん」

心地好い声色が名前を紡ぐ。そのふっくらとした柔らかそうな唇に喰らいつきたいと思う自分は頭がイカレてしまったに違いない。

「俺の事知ってんの」
「知ってます…だから、会いたく無かったのに」

貴方の所為で彼は死んでしまうのよ、と泣く彼女に思い違いも甚だしいと笑った。

「フフ…自分の力量を知らないからさ」
「幸雄さんだってすごいのに。アカギさんが特別なだけで」
「へえ。"特別"ね…」

初めて会ったのに、まるで昔から知っているような口振りのなまえは潤んだ瞳で俺を力強く見つめる。深い漆黒の闇を秘めたその視線に言い表せない何かを感じて背筋がゾクリと震えた。




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