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46

涼宮千恵です。
連絡先ありがとう。
覚えててくれて嬉しかったよ。
古典の課題のこと、また話せたら嬉しいです。




 涼宮からのメッセージを受け取った時間を確認してみれば、だいぶ前だった。確今はちょうど、図書室が閉まるころだからもう帰宅しているかもしれない。だけどもしかしたら、まだ学内かもしれない。

 メッセージアプリの通話機能をタップするけれども、不発。移動中か、気づいていないか出ないか。どちらにせよ、出ないならしょうがない。
 下校する生徒の流れに逆らうようにして校舎に足を踏み入れた。すれ違う知り合いに軽く挨拶をしながら、もう一度、電話ボタンを押した。

 これで彼女が家にでもいたら笑ってしまう。だがこの間聞いた司書のお姉さんの話と、体育館に涼宮が来てた時のことを考えれば、涼宮がまだ学内にいる可能性は高い。

 3度目の正直でもだめで、これでもう4度目の電話。これで出なかったら、さすがにやめた方がいいかもしれない。できれば、早いうちに会う約束を取り付けておきたかった。何より、涼宮から連絡をもらえたことが嬉しくてしょうがない。

 涼宮の場合、電話に気付いても出るかどうか迷って電話を取らないこともあり得そうだ。これで最後にするから、と続くコール音を聞く。
 やっぱり、だめだろうか。さすがに切るか。
 ボタンをタップしようとしたところで、コール音が切れた。涼宮が電話をとってくれた、のか?

「あ、涼宮さん?」

 答えは無いが、息遣いが聞こえた。

「涼宮さんだよね? 良かったー! やっと通じた」

 ちょっとあきらめかけていたから嬉しい。電話はほぼ無音だ。ということは、屋内だ。学校か、自宅か。彼女が学校にいる確率がぐっと上がった。

「良かった。何度かかけたし、今回に至ってはすっごく長い時間鳴らしてたから、これで人違いだったら俺訴えられてたかも」

 相変わらず返事は無い。電話って難しいな。
 涼宮の声を聴けるのはうれしいけど、表情が見えない。声でも聞こえたら、別なんだろーけど。…はっ声真似で超える!

「キタコレ!」

 早速ネタ帳を引っ張り出して、ノートに記す。涼宮は歩き出したようで、きゅっと甲高い音が聞こえた。
 これは、上履きと、リノリウムの床がこすれる音? ……間違いない、学校だ。

 脳内で図書室と昇降口を結ぶ経路をいくつか思い浮かべながら、図書室に向かう。すれ違うかもしれないが、会えるかもしれない。
 そのためにもだめもとで話しかける。まだ、電話を切られちゃいけない。

「遅くにごめん。部活が終わるの、この時間なんだ」
『そ、っか』
「涼宮さんは? もう家?」
『あ、と。…いま』

 少し、返事に詰まったようだった。間違いない。階段を上る。上の階から、上履きの音が聞こえてきた。これで、涼宮じゃなかったら笑ってしまう。

「当ててみようか。……さっきまで、図書室にいた」

 はっと息を飲む音が聞こえた。

「お、当たり?」

 上階の足音が止まった。涼宮は丁度、階段に差し掛かったところにいるのだろう。スマホを耳に付けたまま、階段を上る。踊り場を抜けて、彼女の数段下に立つ。上を見上げると、びっくりしたように立っている涼宮がいた。

「やっぱり。涼宮さん、発見」

 涼宮は驚きすぎて声も出ないのか、固まってしまったのか。するりと彼女の手からスマホが滑り落ちて、鈍い音を立てて床に転がった。コンクリートじゃないが、スマホは無事だろうか。思っていたよりもだいぶ驚かせてしまったことを、少しだけ、申し訳なく思う。

「そんなに驚かなくても……。驚かせて、ごめん」

 涼宮のスマホを拾って、傷が無いかを確認する。ちょうどカバーが下に落ちた為か、外身は無事そうだ。良かった。
 確認もかねてスマホを手渡した。

「傷はなさそうだから大丈夫だと思うけど、一応ちゃんと動くかチェックしてみて」
「……ありがと」
「スマホ落とさせたのは俺なんだから、涼宮さんが感謝するのは違うと思うけど」

 スマホの画面を操作した後、キーホルダーの無事を確認していた。もしかして、スマホ本体よりもそちらの方が大事な物なのかもしれない。

「……大丈夫、だと思う」
「良かった。本当に、驚かせてごめんね」
「……」

 不思議そうに俺を見上げる涼宮は、どうして俺が彼女の所在がわかったのか、知りたいようだった。電話中に拾った音の話なんかは、あまりしない方が良いと前に姉に言われたことを思い出す。全てを話さず、一部だけ涼宮に伝えた。

 納得した様子の涼宮に、用意していた口実を要件として伝える。

「明日の昼もどうせ今日みたいな感じになって、ゆっくり話せないだろうから」

 すると俺の話を聞いて、何やら色々想像し始めたらしい。次第に難しい顔をしだす涼宮の額を指先でつつく。

「はいストップ。思ったこと、考えていることはちゃんと口にする。どんな言葉でもちゃんと聞くから」
「えっ……」
「まあ、言いたいことはだいたいわかるけど」
「……?」
「大丈夫、部活は全力で最後までやってきたから。…さぼったら練習3倍で死ぬし」

 安心したように、涼宮は、少しだけ笑った。泣きそうな顔はかわいい。でも、笑った顔はきれいだ。このままここで立ち話をしていてもしょうがないので、涼宮の背中を軽く押して、昇降口を目指して歩く。


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