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47
 おもむろに涼宮が「部活」、とつぶやいた。涼宮から返事をもらえることは珍しい。彼女を見れば、口にすべきか、しないべきか葛藤しているようだった。ゆっくりと彼女の言葉を待つ。

「ん」
「お疲れさま」
「ありがとう」
「……」
「じゃあ、帰りながら課題の話しようか。涼宮さん、色々調べてくれてただろ。本当にありがとう」
「ぜん、ぜん」

 謙遜する彼女にツッコミを入れたり、課題の話を振ったり。

「平日はこの時間か、もう少し遅くまで部活あるんだ」
「……大変、だね、」
「好きでやってるから」
「……」
「次の土曜日なら、夕方には上がれると思う」
「……」
「涼宮さん、土曜日の夕方から夜って空いてる?」

 静かにうなずく彼女に良かった、と胸をなでおろす。とりあえず、時間は合いそうだ。場所なら何とでもなるだろう。

「涼宮さん、バス? 徒歩?」
「……バス」
「じゃあ毎朝大変だね。混むだろ。こっちで会ってる?」
「……うん」
「ていうことは住んでるとこ遠い?」
「……バスで、30分、ぐらい」
「んー……そっかー」

 どこで集まろうか。このバスは東に向かって路線が伸びているはず。

「……伊月、くんは?」
「……え?」
「家、近いの?」
「……あ、ああ。うん、歩いて通ってるよ」
「……いいね」
「ん?」
「……近いと」
「そうだね」
「……便利で」

 始めて、涼宮から普通の話を振ってくれた気がする。すごく、嬉しい。ああ、本当に……隣の席になって初めて喋った時には、こうやって会話ができる日が来るなんて、思わなかった。

「……場所、だけど」
「ん?」
「学校、近い方が……」
「いいって。遅くなるかもしれないし、涼宮の家に近い方がいいだろ」
「……だけど、伊月くんには」
「迷惑だと思ってたら、言わないよ。大丈夫、俺、男だし」
「……でも、」
「じゃあ、ちょうどここから数キロ先にある図書館は? 4階建ての。あそこなら、ここからもたぶん涼宮さんの家からも、同じぐらいの距離だろ」

 異性に家の場所を知られるのは嫌、と前に姉が言っていたことを思い出して、提案してみる。すると涼宮のお気に召したのか、彼女は一つ、頷いた。涼宮が使っているであろうバス停が見えてきた。すでに誠凛の学生が何人かいる。

「あのバス停?」
「……うん」
「そっか」

 もし毎日この時間のバスを使っているのなら、何人か顔見知りの生徒がいてもおかしくは無いと思うのだが、どうやらそういった人は居ないらしい。というよりも、彼女が周囲を一切見なかったことから察するのに、普段使わない時間だから知り合いがいるはずもないのか、全く興味が無いからなのか。あれだけ一人でいることを気にしている素振りをみせるわりに、その実、あまり他人と関わりたいと思っていないのかもしれない。

 なんとなく、後者が理由な気がして苦笑する俺を、涼宮は不思議そうに見あげていた。

 涼宮がバスに乗ったのを確認して、俺も家に帰るために足を進めた。

---


 朝起きてカーテンを開ければ、既に雨が降っていた。1回のリビングにおりて、TVをつける。おは朝のまえに流れる天気予報がちょうど始まるところだった。

『続いて、三時間ごとの天気です。東京都では一日雨が降り―――』

 夜まで降水確率90%らしい。これじゃあ外周は無いな…。昼も教室か。とすると…涼宮に伝えておくべきだろう。それに、日向と俺との三人じゃあかわいそうだ、カントクにも声をかけよう。コガたちは、まあ来たいなら来るだろ。

 LIMEを立ち上げて、涼宮にメッセージを送った。日向たちには、朝練の時に話そう。

---


「今日のお昼? 伊月君たちの教室で? いいけどなんでまた」
「雨降ってるからだろ」
「それもそうなんだけど、涼宮誘いたくて。別にバスケの話していいから」
「え、でも彼女バスケ初心者なんでしょ?」
「話についていくために、次の時までに涼宮、絶対バスケの勉強してくると思うんだよね」
「へえーそれは育てがいがありそうね」
「うわ、涼宮さんかわいそー」
「日向君? どういう意味かしら」

 相変わらず日向も良くカントクに沈められている。とにかく、協力してもらえそうで良かった。俺の読みが外れなければ、涼宮は一度心を許した人間には評価されようと頑張るはずだ。その対象がバスケ部とバスケなら、俺と涼宮と誠凛バスケ部、全員にとって、理想的な形になる。



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