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15
あっという間にお昼休憩は終わりをつげ、慌ただしいまま午後の授業が始まった。
ダジャレに意識が向いた伊月君からは結局真意を聞くことが出来なかった。それどころか連絡先を交換していないことも、古典の課題の相談をしていないことも思い出した。

伊月君がダジャレをネタ帳に書き留め終わるのと、私がお弁当を食べ終わったのはほぼ同時だった。そのまま屋上から二人で駆け足で教室に戻ったのだから、しょうがないと言えばしょうがない。
食後の歯磨きさえする暇が無かった…というのは女子高生としては少し気になるところだ。ただそれよりも差し迫った問題がある。

あと15分で今日の授業は全て終わる。どうしよう。連絡先のこと、課題のこと、私から彼に声をかけるべきだろうか。いつも帰りのホームルームが終わるとダッシュで伊月君いなくなっちゃうけれど。
昨日の発言を反故にするために彼が提案しなかったのだとは、考えたくない。お昼だって、宣言通り誘ってくれて、一緒に食べたのだ。彼の発言はできるだけ、信じたい。でも、迷惑だと思われたらどうしよう。だけど実際課題は二人でやらなければいけないわけで。

黒板の文字列を写しながらもんもんと悩んでいるうちに、授業の終わりまで残り5分をきったことに気が付いた。

どうしよう、まだ方針が決まっていない!
いくら考えたところで伊月君の考えていることがわかるわけないのは百も承知だけれど、考えずにはいられない。そうこうしているうちに担任が教室に入ってきてしまった。
ああ、どうしよう。
担任の連絡事項を伝える声が右から左に抜けていく。もう伝えることがなくなったのか、「じゃ、解散。また明日」と言ってバインダーを閉じた担任を見て、ハッとした。

伊月君が部活に行ってしまう!
焦りののままばっと右となりを向けば、彼もこちらを見ていたらしい。鈍色の瞳を少しだけ見開いて、私を見返してきた。

「涼宮どうしたの?」
「…いや、あの、」
「聞いてあげたいんだけど、俺これから部活なんだ。また明日の昼で良かったら、いくらでも聞くから。ごめんな」
「あっ」

席を立った彼につられて私も腰を上げかけて、けれど彼の発言に完全に立ち上がることはできないまま、その場で固まってしまう。私こそ、申し訳なさすぎる。当たり前なのに。運動部なら練習で忙しい。なんで気付かなかったんだろう。
どうしよう、目線を左右に漂わせてしまう。その時、机についたままだった私の右手を伊月君が唐突にとるものだから、驚いて声を上げてしまった。周りの学生が何事だと振り向く。

「昼に渡すの忘れてた、ごめん」
「……?」

半分に折られた紙が握られた手に押し込まれ、伊月君の手は離れていった。これがなんなのか、聞こうと思って再度伊月君を見上げるも、彼は既に鞄を手に席を離れようとしていた。

「おい伊月いくぞ!」
「わるい日向!今行く!···じゃあ、そういうことだから」

早くも教室の入り口に立つ日向君に呼ばれて、結局この紙をどうしてほしいのか言わないまま、伊月君は行ってしまった。
私のあげた声のせいで一瞬の静寂に包まれたクラスにも、再びざわめきが戻ってきた。
そのうち、耳が拾った幾つかの声が脳内で反響する。少し高い声で落とされた「なんで伊月君はあんなに涼宮さんに構うの」という最もな問いが、はりついてしまったように耳から離れなかった。

そんなの、私だって、知りたい。

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足早に図書室に来て、いつもの定位置に座る。壁掛け時計の見える窓辺。入口から奥まったそこの席は、日差しが直に当たるからか、いつも空いていた。

課題を広げる前に伊月君から手渡された紙を開く。見覚えのある、丁寧でありつつも少しの雑さが垣間見える文字が躍っていた。いくつかの数字と、連絡を待っているという旨のメッセージ。

どうやら電話番号とメッセンジャーアプリのIDらしかった。

「ごめんなさい…」

疑って、ごめんなさい。

つい先日伊月君を傷つけたことを自覚したばかりなのに。
今日だって疑って、その疑いが見当違いであることが分かったばかりなのに。どうしても伊月君の好意を信じきれなくて、申し訳なくなる。それと同時に、いや、それ以上に、こうやって私との約束を覚えてくれていた伊月君の行動が嬉しくなる。本当、自分でも呆れてしまう。

昨日彼に返してもらって、充電満タンなスマホを手に取る。伊月君の筆跡の文字をたどりながら数字を打ち込み終わって、まだ大きな問題が残っていることに気が付いた。
メッセージ、なんて送ろう。


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