long | ナノ
14
生暖かい視線に耐えられず、やはり逃げるか、なんて思い始めたころ、日向君が「ていうかさっさと食べよーぜ」と言った。

「そうね。…って昼休みあともう半分もないじゃない!」
「ああ」
「まあ俺たちが来たのがそもそも遅かったしな」
「いや、お前のせいだろ伊月」

ぺりぺりとふりかけの封を切りながら話し始めた伊月君と日向君によって、他の数人からの目線が外れた。皆手元のお昼ご飯の封を切ったり、飲み物を口にしたりしている。
外れた視線にほっとしながら、自分のお弁当を鞄から引っ張り出した。

「あ!涼宮さんお弁当じゃん!もしかして手作り?!」
「…っ」
「やっぱ女子の弁当って憧れるよなあ!なあ水戸部!ってお前もお弁当だった!!しかも水戸部作!!」
「……」
「やっぱお前もそう思う?!」

私が何かを返すのを待つことなく、テンション高く隣の水戸部君と盛り上がる小金井君。
ああ、こういう人との会話楽。いや成り立ってはいないけれど。水戸部君とどうやって意思疎通をはかっているのかな、小金井君は。

少し首をかしげていたのだろうか。伊月君が「コガは水戸部が思っていることわかるんだってさ」と教えてくれた。え、すごい。私もその能力欲しい。そうしたらもっとちゃんと伊月君と意思疎通ができるだろうに。

「…すごいね」
「だろ?すごいよなー」

私にしては珍しく会話らしいテンポを保ったまま、伊月君に返事ができたことが嬉しかったのに、なぜか相田さんと日向君から呆れたような目線を受けた。…え、なんで。

「で、涼宮さん。実際どうなんだよそれ」

早くもお弁当を半分食べた日向君の質問の意味がわからず答えに困る。何のこと?何か、聞き逃していただろうか。答えない私に日向君の眉間にしわが寄った気がする…。え、こわい。

「言葉が足りないぞー日向。お弁当の事だよ。それ、涼宮の手作り?」
「…あ、うん」
「自分で作ってるの?」
「……」

右手からとんできた疑問に、再び相田さんの方を向く。全部自分で作ってはいるけれど、作り置きだしなんと答えていいものか。

「なんで伊月君にしか返事返さないのよーっ!!」
「怒るなってカントク」
「伊月君うざいっ!」
「伊月うざい」
「おまっ日向ひどいぞ!」

煽る日向君、怒っている相田さんと怒られている伊月君。ここに、私は居ていいのだろうか。誘ってくれた伊月君の言葉を信じたい、けれど。
気付くと静かになった空間に息をのむ。もしかして、私のせい。口の中の白米の味を感じない。

「はい上を向こーなー」

自然と下がる目線を許さないというように、大きな手が私の額を下からすくうようにして押し上げるものだから、自然と顔も上を向いた。そのままその手に頭を撫でられる。
伊月君だ。

「今のなんか木吉っぽい!な、水戸部もそう思うだろ?!」
「……」
「木吉っぽくて逆にキモいぞ」
「キモいって…ひどいな」

左側で話す伊月君は、相変わらず私の頭に手を置いたままだ。恥ずかしい。ご飯食べられない。さっきまでとは違う意味でご飯が食べられない。

「ほらーふざけてないで食べる。あと10分よ」
「まじか、やべ」
「伊月のせいだからなー」
「ええ?」

慌てて駆け込むように皆食事を再開した。自然に離れていった伊月君の手に、少しだけ、寂しさを感じた。
他のクラスの相田さんたちは次が体育だったり教室移動だったりで急ぐらしく、食べ終わった人からそれぞれクラスに帰っていった。相田さんに引っ張られるようにして同じクラスと思われる日向君も屋上から消えた。他にも生徒は屋上にちらほらいた筈なのに、気付くと私と伊月君だけになっていた。
彼は残っていたおかずを食べている。もう少しで食べ終わりそうだ。これで、まだ食べ終わっていないのは私だけだ。黙々と残りの白米とおかずを口に運ぶ。食べ終わったから、彼も教室に戻るのだろうか。次の授業はなんだったかな、と思考を巡らせようと思うのに、どうしても伊月君の行動に理由を探してしまう。

他の男子生徒に比べて、驚くほどゆっくりと食べていた。よく噛むタイプの人なんだろうか。伊月君が残ってくれていたから、一人でご飯を食べずに済んだのだ。輪になって食べていたところから、いきなり一人でご飯はぼっち経験済みの私でもつらい。
本当に、伊月君にはお世話になってばっかりだ。

「バスケ部、いいやつらばっかだろ」

伊月君の声に顔を上げる。ペットボトルのキャップを閉めながら、伊月君がこちらを見ていた。食べ終わっているのに、腰を上げる様子がない。

「涼宮さんが良かったら、明日からここで一緒に食べよう。一緒にここに来てもいいし、先にここに行ってくれてもいいし」
「…なんで…そんなに」
「んー?」
「…伊月君は」
「うん」
「……伊月君は、どうしてそんなに良くしてくれるの」

ずっと気になっていたことだった。謝罪はした。感謝もした。でも、だからといって彼が私に良くしてくれる理由になんてならない。

「んー…」

彼にしては珍しく、言葉を濁した。私を見て、一度上の方に視線を向けて、ややあってからまた私を見た。鈍色が優しく瞬く。目を少し細めて笑う、あの優しい笑みだった。

「なんでだと思う?」
「…そんなの、わかんないよ」
「そうだなあ、あえて言うなら…」

そこで彼はハッとした表情になった。まるで、何かを思いついたような。え、まさか―――

「和え物をあえてあえる!キタコレ!」


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