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57
「きよし、くん……?」

 頭の中に、ハニーブロンドの、顔と中身は優しいくせに言葉が恐ろしいほど鋭い幼馴染みを思い浮かべる。
 清志くんが、どうかしたのだろうか。でも彼って秀徳だよね……?

 訳がわからず首をかしげるしかない私に、伊月君からアクセントが違うと訂正が入った。続いて「鉄平よ、木吉鉄平」と相田さんから補足を受けて、記憶の中でその音をさらう。
 きよし、てっぺい。そういえばどこかで。

 木吉鉄平、とてつもない才能、努力による技術、並外れたセンスにより、無冠の五将と呼ばれる選手の一人。部室の月バスのバックナンバーに特集があった人だ。

「そいつ、うちの選手だけど、今入院してて」
「え? ええ? 入、院?」
「復帰はまだ先だけど、顔合わせだけでもと思ってね。それが今日の行き先」

 屋上でご飯を食べていた時に、他にもメンバーがいるとは言っていたけれど、土田君のことかと思っていた。まさか他にいるなんて。
 前を歩く伊月君と日向君、私の隣を歩く相田さんの三人は、今までも良くお見舞いに行っていたらしい。いわく、部活のオフの日はストバスかお見舞いが多いんだとか。

 伊月君たちもすごいのに、それ以上にすごい人ってどんな人なんだろう。嫌なやつ、と木吉君を称する日向君に強面な高校生を思い浮かべる。怖い。

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「リコから話は聞いてるぜ。マネージャーになったんだってな!」

 リハビリ施設のロビーで私たちを迎えてくれた木吉君は、思い描いていたような日向君似なヤンキーではなく、大きな、それでいて人懐っこい笑顔を浮かべる人だった。

「コイツが木吉。うちのまあ、エースだよ。入院中だけど」
「森の木に、大吉の吉、鉄筋の鉄に平清盛の平で木吉平だ。あらためてよろしく! それと遅くなっちまったが、……ようこそ誠凛高校バスケ部へ!」
「なんでお前がえらそーなんだよ!」
「だって俺だけ歓迎会参加して無いんだろ? いいだろそれぐらい。なんだ、お前も歓迎されたかったのか?」
「ちげーよ!」

 日向君は伊月君のダジャレにツッコミを入れているときみたいにキレッキレだけど、どことなく言葉に刺があるような。
 バスケ部って仲の良いイメージが強かったから、声をあらげてやりとりしている二人に不安になる。
ちらりと見上げた伊月君は取り立てて慌てるわけでもなく、涼しい顔をしている、けども。

「伊月君……いいの?」
「いいんだよ、いつものことだから」
「ええ……」

 それはそれで……いいのかな。大丈夫そうに全然見えないけど。
 私を振り替えって、にやり、そんな言葉が似合う表情を相田さんが浮かべた。バスケのことになると、伊月君も相田さんもちょっと好戦的になる気がする。

「そーよ千恵。こんくらいでビビってたら、試合のとき腰抜かすわよ?」
「えっ……」
「こいつら、喧嘩してても連携はばっちりだから」

 ふふん、と鼻を鳴らしてそう告げる相田さんのその言葉の指すところを私が実際に目にすることが出来るようになるのは季節がもう少し巡ってからのことになる。


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「鉄平はこれからリハビリでしょ? 私たちはそろそろ失礼するわね」
「じゃあな木吉、頑張れよ」
「……待ってるからな」
「ほら、涼宮も」

 相田さんたちが順に木吉君に声をかけていくのを1歩離れて見ていたら、伊月君に思い切り腕を引かれた。そして何か言うように、と促される。でも、初対面の人に何を言えば? 私も頑張るから、は違うし、元々いたメンバーでもないから待っています、も違う。
 木吉君にかける言葉を迷っていると目が合った木吉君がにっと笑った。と同時に、目がすうと細められる。

「俺は絶対戻る。戻って見せるさ。俺たちは日本一に、なるんだからな」

 木吉君が眼光鋭く放った言葉は、入部初日にカントクである、相田さんに言われたことを彷彿とさせた。

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――来年のインターハイ予選までもう半年しかないの。いつか出来るようになる、なんてのはだめ。今日教えたことは今日覚えて帰ってちょうだい。

 全くもってそのとおりなんだけど、一度で覚えるなんて無理だし、初日から心が折れそうだ。部活の練習量の話になると、決まって遠い目をしていた伊月君や日向君たちを思い出した。こういうことだったんだね……。大変さの一端が少しだけわかったよ……。

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 なんて、感じてしまったいたけれど。皆本気なだけなんだ。脅しでもなんでもなく、そう思っていることなんだろう。
 怪我で部活から離れている木吉君からも伊月君達と同じ気迫を感じる。私も、ちゃんと覚悟をもって支えなきゃ。

「えっと、私も、皆を応援できるように、頑張ります……ね、」
「おう、一緒に頑張ろうな!」
「あ、はい。だから……」
「ん?」
「……いや、なんでもないです」

――だから、プレーを見られるのを楽しみにしています

 そう言うのは、今の距離感で私が口にすべき言葉じゃない気がする。あいまいに笑ってやり過ごせば、日向君と相田さんに困ったように笑われたし、木吉君はきょとんとしていた。木吉君って背が高くて見た目の圧迫感がすごくて怖かったけど、すごく話しやすい人だ。



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