青と赤 | ナノ
 0.5

「俺の女になれば?」


 爽やかな風の吹き込む静かな教室の窓には晴れやかな空が広がり、椅子に座る2人のシルエットを浮き出す。男の心に緊張は無い。なんせ男は何でも持っている。緊張するような不安は何一つ無かった。そんな男の提案に女は一つ瞬きをすると、慌てる様子もなく、持っていたパックジュースの中身をちゅうと吸い上げた。そうしてしばらくもすれば女のカップから緊張感のない濁音が響きだす。頬杖をついたままの男の顔には余裕が滲んでいた。

 女の唇が離れ、噛み潰されたストローが白い歯と一緒に覗く。男はそれを見た途端、見たいような見たくないような、むず痒いとも言える何とも言えない気持ちが湧き上がってくるような気がした。


「なってないね」


「は?」


 そんな男を現実に戻す女の言葉。その返答は男の予想していたものとは全く違っていた。


「それじゃダメ」


 女はそう言うと話は終わったとばかりに、なんの未練も見えない自然な速度であっさりと男から目を逸らした。


「そーかよ」


 まさに目もくれないとはこのことか。それには空気を読んで黙っていた別の二人の男女も我慢ならなかった。

 「ぷ、」「くく」と小さな笑い声が漏れ、男の眉間が不機嫌そうに寄る。その表情に二人の笑い声はさらに大きくなった。


「だから言っただろ?そんなんじゃ無理だって」


 呆れと耐え切れない笑いを滲ませた声が「悟」と男の名前を呼ぶ。


「ウルセェ。傑が言ったんだろ。強引なぐらいがちょうどいいって」


 呼ばれた男、五条悟は隣に立つ夏油傑を見上げ、けっと下唇を突き出した。
 

「今通算何回目?」


「まだ5」


「もうじゃん」


 そして、片手に棒付きキャンディを持ち、机を囲んで五条の隣に座る家入は五条のむすくれた顔を笑って、「そろそろ折れてやったら?」自身のもう一つ隣、五条の正面に座る兎に向け首を傾げた。


「私甘ったるいだけの匂いって好きじゃない」


 答えはNO。家入は「甘いもの好きなくせに」と笑うと兎の空いた口にキャンディを差し込んだ。


「ぜってぇOKさせる!!!」


「ほらな。煽るだけなんだって」


 



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