夜の兎 | ナノ


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「始めようか有精卵共!!!戦闘訓練のお時間だ!!」


 更衣室から出て、グラウンドβへ。ここには小さな街があり、街中での活動を想定したリアルな演習を可能とする。だが、街一つまるまる演習場とは。しかもそれが他にもあるというのだから、一体、ココの敷地面積はどのぐらいなのかと疑問が湧く。一度、探検でもしてみようと名前は幾つもある施設のうちの一つを見てそう思った。

 すると突然、興奮したような叫び声がすぐ近くで上がった。見れば足元に頭にブドウの粒を乗せたような小さめの学生がフガフガと荒い息で名前の脚を凝視している。


「チャ、チャ、チャ、チャチャイナドレス!!!!生脚最高だぜぇェエエ」


「ざんねん、タイツ履いてるよ。ていうか誰」


「俺、峰田。よろしくなチャイナ!」


 名前の出した要望は三つだ。チャイナドレスと日光対策、そして傘である。

 そうして、出来上がったコスチュームは長袖のロングチャイナドレスだった。素材は軽く、柔軟性があり、撥水性もある。それに袖にかけて口が広がっていく構造になっているため手の動きを邪魔せず、相手からも分かりにくい。

 下半身は脚の動きを邪魔することがないよう、片側には骨盤に近い辺りまで深くスリットが入っていて、全開という事故が起きないよう前後の布の間にベルトがあり、股下の部分も下着が見えないような細工付き。遠慮して動く必要もない。スリットが両側じゃなかった為に少し動きにくいという改善点はあるが、洋服よりも格段にしっくりきている。

 二つ目の要望である日光対策にはサポート会社も手こずったようで、極々薄のタイツに同封されていたメモには生脚になんとか近づけました。遮光性、強度共に気にいると思います。自信作です。と趣味を兼ねた努力の跡を感じる言葉が残されていた。

 上には前世からの名残で日除けのマント、手にはグローブ、首にはボタン一つで包帯を顔に巻くことができるアイテムを装着している。名前は個性因子を持っていないため、個性は無個性であるが、便宜上の理由で超怪力として個性の届け出をしているため、サポート会社はそれに合わせて要望には無かったもののブーツに鉄板を入れ、重さと踏み込みに耐えられる強度をもたせた。


「ていうか名前傘デカっ、それも私物?」


「ううん、作ってもらったやつ」


 最後の要望である番傘。これは身長程の高さがあり、名前のフルスイングにも耐えられるよう特殊な金属で製作されている。銃機能も要望に書いたのだが、実弾の許可が降りる筈もなく、中身はゴム弾だ。こちらも重量は相当だが、超怪力だし大丈夫だろうというサポート会社の判断がなされた。

 傘は気分に合わせて使い分けられるよう、大きさやデザインの異なる物が何本か制作されていて、それ専用のホルスターは使わない時以外は手のひらサイズにできるという優れもの。便利になったもんだ、と名前は満足気に差している傘の普通より長い持ち手に滑り止めとして私物の包帯を巻き付けた。


「良いじゃないか皆。カッコイイぜ!!」


「先生!ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」


 フルアーマーの戦闘服に身を包んだ飯田が生真面目を表すかのように肘を90度に曲げ、挙手をした。


「いいや!もう二歩先に踏み込む!屋内での対人戦闘訓練さ!!敵退治は主に屋外で見られるが、統計で言えば屋内のほうが凶悪敵出現率は高いんだ。監禁・軟禁・裏商売…このヒーロー飽和社会。ゲフン、真に賢しい敵は屋内にひそむ!!」


「君らにはこれから敵組とヒーロー組に分かれて2対2の屋内戦を行ってもらう!!」


「ですが先生!!我々のクラスは21人、1人余ってしまいますが!」


「アレ!?」


 完全に失念していた。オールマイトは小さく「そ…そうだっけ」と呟いた。


「えっと、21人だから1チームだけ3人でやってもらおうかな」


「人数の差は大きいのではないでしょうか!」


「敵が同じ人数とは限らないからね!そういう経験を積んでおくのも自分のためになると思うのさ!」


「まだ初回なのに?それに基礎訓練も無しなの?」


「Hahaha!その基礎を知るための実践さ!」


 後付けにしては上手く話を逸らせたと思ったオールマイトだが、生徒達にはバレている。名前がぼそっと「人数忘れてたんだろうなぁ」と呟いた。


「バレてる!!!ゴホンッ、ただし、今度はブッ壊せばオッケーなロボじゃないのがミソだ」


「勝敗のシステムはどうなります?」「ぶっ飛ばしてもいいんスか」「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか……?」「別れるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか」「このマントヤバくない?」


 矢継ぎ早に飛び出す疑問。


「んんんーー聖徳太子ィィ!!!いいかい!?状況設定は敵がアジトに核兵器を隠していてヒーローはそれを処理しようとしている!ヒーローは制限時間内に敵を捕まえるか核兵器を回収すること」


 授業ビギナーなオールマイトは用意していたメモを開き、書いてある事をそのまま口頭で説明する。大きな体で脇を締め、小さなメモ用紙を読んでいる姿に名前はマスコットのような愛らしさを感じた。


「…可愛い」


「エッ」


「敵は制限時間まで核兵器を守るかヒーローを捕まえる事。コンビ及び対戦相手はくじだ!」


「適当なのですか!?」


「プロは他事務所のヒーローと急造チームアップする事が多いしそういう事じゃないかな…」


「そうか……!先を見据えた計らい…失礼致しました!」


「いいよ!!早くやろ!!」


「考えるのめんどくさかっただけじゃない?」


 この時間の間でオールマイトが意外とお茶目な事を知った名前がそう言う。


「(またバレたッ!)」


 見てわかるほどに大きな体をびくつかせたいのを見て、そして素直、とオールマイトの人柄を脳に追加で記録した。


「くじ引きだ!!!」


 出席番号順にくじを引いていく。21番目の名前は確定で3人チームの為、所属チームのくじだ。そして引いた丸い球にはIの文字があった。



    ーーーーーーーーー


「わー!よろしくね名前ちゃん!私、葉隠透!」


「えっと、尾白猿夫。よろしく」


 透明な女の子と太い尻尾の生えた男の子。個性が何かは聞かずとも明白な2人に名前はこれはどこをどう見ても近接チームだなぁ、と
思いつつ、にっこりと笑みを浮かべた。


「名前、よろしく」


 その人の良さそうな笑みと美しい容貌を正面に受けた尾白と葉隠の頬がポッと赤くなり、見えない葉隠の両手袋が頬の位置まで上がる。


「び、美人さんだ……」


 その様子を近くで見ていたフルフェイスのコスチュームに身を包む細身の男子生徒、瀬呂は意外と上手くやっていけそうじゃんと感心したように「おお、」と息を吐き、そしてあることを思い出し「ゲッ」と声を上げた。


「個性把握テスト1位が3人チームに入んのか…」


「入試は37位だけどね」


「は!?」


 すぐさまヘルメットから顔を出した瀬呂は「なんで!?」と名前の顔を凝視した。戦闘能力重視の試験にそれほどまでにうってつけな個性を持ってしてなぜ。すると名前はそんな疑問にあっけらかんと答えた。


「さぁ?説明あんまり聞いてなかった」


 ヒーロー養成の最高峰、雄英。全てをかけてでも入学したい者が後を絶たない、そんな高校の入試で何て呑気。瀬呂は絶句した。


「意外と天然なん?」


 無限女子の言葉に名前はまるで心当たりがないように「ん?」と首を傾げた。


「続いて最初の対戦相手はこいつらだ!!Aコンビがヒーロー!!Dコンビが敵だ!!」
  


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