03、格好良い人 

大谷吉継の妻に成り代わり、その体を都合良く自分の物にした。私は”実由紀”であって、”伊代”ではない。それでも、大谷さんの側に居たかった。私は、大谷さんに惚れてしまったのだ。……全部全部、私の身勝手な想い。周りから責められてもおかしくはない。
大谷さんに屋敷を案内された。屋敷内の庭は美しく風情があり、現代の庭とは全く違うことを思い知らされた。池には鯉が泳いでいる、と聞いた為、池を覗いてみた。そこには、確かに何匹もの鯉が泳いでいて、たまに餌を求めて口をパクパクさせる姿は、とても可愛らしいものだった。……だが、ひとつ驚いたことがある。

――…池にうつる自分の顔が、成り代わる前の自分の顔のままだったのだ。

もはや、トリップしたのか成り代わったのか、よく分からなくなった。トリップしたら大谷さんの妻になっているわけないだろうし、成り代わって自分の顔だったというのはあまり聞いたことがない。でも、私を届けてくれた男性達は「伊代殿」「百姓の娘」と言っていた。…………成り代わりの線が1番高いようだ。




 ***




外は既に薄暗くなってきた。
夕餉は女中さんが作ってくれていたようで、二人分の夕餉があった。冷めてはいるけれど、無いよりはマシだ。有り難く、大谷さんと一緒に夕餉を食べさせてもらった。その際、大谷さんの目が優しい感じがして、なんだか気まずかった。元百姓の娘だから、と気を遣ってくれたのだろうか。分からん。



『――……あの……、これは……』



夕餉を食べ終わり、しばらくのほほんとした雰囲気のままお喋りを楽しんだ。……が、何故か畳の上に押し倒された。目をパチパチと何回も瞬きをし、大谷さんを見る。大谷さんは何食わぬ顔で私を見ている。



「初夜だ」
『はあ……』
「となると、やることはひとつだろう」
『……えっと、え……?』



ちょっと現実逃避したい。「や、あの……」と口をもごもごさせながら、なんとか逃げる方法を考える。助けを求めようにも、この屋敷には私と大谷さんしかいない。大谷さんの素早さと力を考えれば、私は逃げても負ける。……えっ?大人しく犯されろと?



『お、落ち着きましょう!!私なんか食べても美味しくないですよっ……!!』
「美味しいか美味しくないかは、俺が判断することだ」



私、なにもかも大谷さんに敵わない気がする。イケメンは普通の人と言うことが違う。それだけ相手にしてきた女性の数が違うということなのか、どうなのか。赤くなった頬を隠す為、そっぽを向いて両手で頬を隠す。耳に僅かに触れる親指に、耳から熱が伝わる。大谷さんはそんな私に「ふっ」と笑みを浮かべると、頬を隠している私の手首を掴んだ。



『えっ、ちょ、』



何をする気か、なんて分かりきっている。大谷さんは、私の頬を隠している手を退かす気なのだ。退かそうとする大谷さんに対抗しようと、力を込める。大谷さんは私の手を退かそうとし、私はそれに抗う。



「何故隠す?」
『っ……』



「何故」って、恥ずかしいからに決まっている。でも正面向かって言えることではない為、何も言わずに目線を逸らす。大谷さんは、私が恥ずかしがっていることに気づいていると思う。多分。



「――…実由紀」



初めて、本当の名前を呼んでくれた。その声に反応し、大谷さんへと視線を戻す。一瞬力が抜け、その隙をつかれて頬から手を離された。「あっ」と声に出したときには既に遅く、赤く火照った顔が露になってしまった。捕まった手は、両方そのまま顔の横に押さえつけられる。ドクンドクン、と胸が高鳴って頭が混乱する。だ、駄目だ……、マトモに大谷さんの顔、見れない……。思わず、バッ、と目線を逸らす。すると、再度「実由紀」と名前を呼ばれた。



「目を逸らすな」
『っ……』



そんなこと言われても、恥ずかしいものは恥ずかしい。私は目線を逸らしたまま合わせることをしない。っていうか、本当なんなんだ、この状況。雰囲気が甘すぎて、こういう雰囲気に免疫ない私の心臓がうるさい度MAXなんだけど。なんとかして逃げたいけれど、この手首を抑えられてる状態じゃ絶対逃げれないんだろうな……。だからって、このまま犯されるのは気が気じゃない。大谷さんは好きだけど、色々前提が欲しいのだ。



「……やはり、病では嫌か」
『っそんなことないです!!』



悲しげに言う大谷さんに、咄嗟にそう言う。大谷さんは食いつき気味に言う私の言葉に、僅かに目を丸くした。病が嫌なんじゃない。そんなこと、私は歴女だから成り代わりトリップする前から知っていた。



「では、今からすること、恐いか?」



そう聞かれ、私は視線を逸らす。それを肯定と取った大谷さんは「そうか」と静かに言った。すると、手首から手を離す大谷さん。そのまま、その手を私の両頬へと添えた。どうしたのだろう、と大谷さんへ視線を向ける。



――ちゅっ
『っ!!』



大谷さんの顔が近づいたと思ったら、口にキスをされてしまった。驚きすぎて固まってしまう。初めてのキス、ファーストキス、……それを大谷さんに奪われてしまった。まだ、好きなのだと分かって日を跨いでないのに。大谷さんは私が固まっていることに気づくと、ふっと優しい笑みを浮かべた。



「――続きは、また今度」



……やっぱり、適わない……。



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