02、自分勝手な覚悟 

戦国無双に出てくる大谷吉継が、私の目の前に居る。その事に感動や呆然していると、大谷吉継が私へと歩み寄ってきた。ハッ、とし慌てて頭を下げる。ジッと足元を見ていると、自分の足の先に大谷さんの足が止まったのが見えた。



「三人共、顔をあげてくれないか」



大谷さんの言葉に、両隣の男性二人が「は!!」と言い、顔を上げた。それに釣られるように、私も頭を上げる。大谷さんの顔を見ると、大谷さんは私を見ていたようで、目が合った。その真っ直ぐな瞳に、私は目を逸らしそうになる。綺麗な顔立ちは見慣れず、ドキドキと胸が高鳴って仕方ない。ヤバイ、落ち着け。此処で失敗したら白い目で見られる、絶対。平常心を心がけていると、大谷さんが両隣に居る男性二人にそれぞれ視線を向けた。



「御苦労だった。他の二人は下がってくれ」
「え?しかし、婚儀は……」
「二人だけで行いたい。上からの了承も取ってある」
「はっ、招致しました」



大谷さんの言葉を返事をすると、二人は軽く下げ、来た道を戻って行ってしまった。大谷さんはそんな二人を少し見送ると、次に私へと視線を向けた。再び交わる視線に、私は驚いて目線を斜め下に逸らしてしまう。うわ……、今のは駄目だって、私……!!



「…………やはりこんな男は嫌か、すまない」



ボソッと呟くように言われた、その言葉。その言葉を聞き、内心「えっ」と思いつつも、顔を上げて大谷さんを見る。大谷さんの表情はいつもと変わらず無表情だ。でも、その口から出た言葉は悲しげで、重かった。落ち着け、自分。何か言わなきゃ、何か……。



『えっと……、目を逸らしたのは、そういう意味ではなくて、その……』



あああああっ、ハッキリ言え馬鹿!!!!



『私、家族以外の男性と話すことがあまりなくて……、大谷様、顔お綺麗ですし、えっと、あの……』



もはや自分が何を言っているか分からなくなってきた。恥ずかしさのあまり、顔も耳も熱くなってくる。これは顔が赤くなっているに違いない。きゅっ、と口元に力を入れ、顔を俯かせる。この結婚、終わったかもしれない。自分の行った行動に対して、もっとしっかりしていれば、と後悔する。だが、その時「ふっ」と笑う声が前方から聞こえた。その声に、私は顔を上げて大谷さんを見る。大谷さんは、笑みを浮かべて私を見ていた。



「どうやら、俺の妻は恥ずかしがり屋らしいな」



そう言う大谷さんの声は優しげで、思わず「え……」と呆けてしまった。大谷さんは、私のことを「俺の妻」と言ってくれた。成り代わりとはいえ、その事実は嬉しい。ニヤける口元を隠すように、袖を口元に持っていき、顔を俯かせる。



『私……、百姓の娘で、迷惑をかけてしまうことがあると思います。常識知らずだし、言葉遣い分からないし……。――…こんな私で良ければ、貰ってください』



言いたいことを言い、頭を下げる。すると、頭に何かが乗った。驚いて顔を上げると、大谷さんが微笑みながら私の頭を撫でていることに気づいた。あまりの恥ずかしさに、顔と耳が熱くなっていく。イケメンに免疫がない私にとっては、とても辛いことだ。



「勿論だ」



その言葉は、私を嬉しくさせるのに充分な言葉だった。大谷さんの言葉はひとつひとつ大切に感じられる。この想い、そういう事なんだろうな。笑みを浮かべると、大谷さんも微笑んでくれた。



「そういえば、まだ名を聞いていなかったな」
『あ、はい。伊代と申します』



大谷さんの言葉に、私も「そういえば」と、自分が名を名乗っていなかったことを思い出して、”伊代”の名を名乗る。成り代わりとはいえ、別の人の名を名乗るというのは複雑だ。だから……、”伊代”さん、私の愚行をお許しください。



『ですが、大谷吉継様の妻となる覚悟を決め、実由紀、と名を改めとう御座いまする』



”伊代”さんに成り代わることが何かを意味していることならば……、どうか私に、大谷吉継の妻となる許可を…――



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