お題 | ナノ

君の声がしたのに振り向けないの続き




「こーちゃん!」

僕が何度呼んでも、君が振り向いてくれることはなかった。あの日から…、いきなりキスをされた日から、こーちゃんは一度も口を利いてくれることも目を合わせてくれることもなくなった。
もう、そんな状態が一ヶ月以上続いている。だから、僕は次にこーちゃんが口を利いてくれなかったら諦めようと思った。だって、さすがに堪えられないよ。大好きな君に避けられ続けるのは…。

こーちゃん、話がしたい
家の前で待ってるから、出てきて

それだけのメールを送って、僕はこーちゃんの家の前にしゃがみ込んだ。これで何の反応も無かったら、こーちゃんと僕の関係はもうおしまい。きっと、修復されることはなくなっちゃう。
ねぇ、こーちゃん。僕は、そんなの嫌だよ…。僕はケータイを握りしめながら、ずっとこーちゃんを待った。

1時間、5時間、7時間…

どれだけ待っても、こーちゃんは出てこなかった。夕陽が見えていた空も、今は真っ暗。おまけに少し前から冷たい雨まで降り出した。 雨が、僕の身体や服をビショビショに濡らしていく。それでも僕は待ち続けた。
最初から、こーちゃんが出てくるまでは待ち続けるつもりだったから。これで朝まで待って、学校に行くこーちゃんが僕を見ても何も話し掛けてこなかったら、僕達の関係は終わり。そんな自分に有利なルールを勝手に作った。こーちゃんは、こんな状態の僕を絶対に放っておけないでしょ? それからまた何時間も雨に打たれ続け、ケータイを確認するともう夜中の2時30分。本当に朝まで待つことになるかも。そんなことを思いながら冷えた手に温かい息を吹き掛けていると、バンッという大きな音とともに、あきら!という声が聞こえた。顔を上げたのとほぼ同時に、僕は抱きしめられた。
…あぁ、待ち望んだ人がやっと来た。傘もささずに僕の元に駆け寄ってくる君を、どれだけ待っただろう。こーちゃんは、僕を一層強く抱きしめながら小さく呟いた。

「こんな時間まで、何してんだよ…」
「何って、こーちゃんを待ってたんじゃない」
「…っ、だからって、こんな時間まで待ってないだろ、普通。雨だって降ってんのに」
「僕は待ってるよ。だって、どうしても君に伝えたいことがあるからね」

そう言って少しこーちゃんから身体を離し、じっと見つめた。…こーちゃん、今から言うこと、よく聞いててよ?全ては君の勘違いなんだから。

「…ねぇ、こーちゃん。僕はこーちゃんのこと、嫌いになんかなってないよ。大好きなんだよ。だから、もう避けたりしないで」
「え…」

会話が途切れ、雨音だけが異様に大きく聞こえた。暫くの沈黙の後、こーちゃんはポツリと小さく呟いた。

「気、遣わなくていいよ」
「…こーちゃんは、僕の言葉が嘘だって思うの?」
「だって…、あきら、泣いてた」
「そうだけど、僕はこーちゃんが好きだよ。泣いたのは、いきなりのことでビックリしただけだもん」

本当は泣いた理由なんて自分でもよく分からない。でも、嫌で泣いたんじゃないのは確かだから。辛そうにするこーちゃんに、僕はもう一度「大好きなんだよ」と伝えた。すると、こーちゃんの頬を一筋の涙が流れた。僕が慌てて涙を拭おうと手を伸ばすと、こーちゃんはその手を握りながら「ありがとう」とだけ言って微笑った。
僕は、もうこれからは離れていかないでね。と言って、こーちゃんの小指に自分の小指を絡ませた。そして、見上げながら「約束ねっ」と満面の笑みを見せれば、君は「うん」とだけ答えてあの時とは違う、優しいキスをくれた。

…冷たい雨は、いつの間にか止んでいた。






小指同士で幸せを、唇同士で愛を


(君の心に降る雨は)(僕が晴れに変えてあげる)

- END - 





1/2

 
←back

×
- ナノ -