A requiem to give to you
- 白銀に歌う追複曲・前編(1/6) -



白銀の世界。一年中雪で覆われた大地、シルバーナ大陸にあるケテルブルク港へと降り立ったルーク達はその圧巻とする世界に感嘆を漏らした。



「すげぇ……」

「とっても寒いですの! でも綺麗ですの!」

「こんなにたくさんの雪、初めて見たよぉ♪」

「本当ね」

「美しいですわね」



言葉に出来ないその美しさに誰もが嬉々として声を上げる中、約一名は死にかけていた。



「……うぐ……………ぅえ」

「ちょっと、しっかりしなさいよ」

「なんかお前、前よりも駄目になってないか?」



呆れたような、それでいて心配を露わにしたような声をかけられ、タリスとヒースに肩を借りながらタルタロスから降りてきたのは、これでもかと毛布やら上着やらを羽織り、青を通り越して真っ白な顔をしたグレイだった。

ここまでの海上移動による船酔いと、この地の寒さのダブルパンチを受けていた。



「もう、耐えられねェ………タルタロスで待ってるから、お前らだけで行っててくれ」



歯をガチガチと震わせながらの言葉にタリスは「何馬鹿な事を言ってるのよ」と怒った。



「何日かかるかもわからないのに、エンジンもかけられない状態で下手に残ってたらそれこそ凍死するわよ」

「そうですわ! それに街まで行けば休む場所もありますし、そこなら十分に暖を取れる筈ですわ」

「ナタリアの言う通りだぜ。あと少し行けば着く筈だから頑張ろうぜ!」

「ですの!」



そんな仲間達の励ましを受けるもなかなか体は動いてはくれないらしく、一歩進むのも辛そうにしているグレイに最後にタルタロスから降りてきたレジウィーダがいくつか手に持っていた宝石のような物を毛布の中に入れ始めた。



「レジウィーダ、何をしているの?」



ティアの問いに他の仲間達よりは少しだけ薄着のレジウィーダは「譜石!」と宣った。



「寒さが苦手などこかのおバカさんの為に、ジェイド君からタルタロスの暖房用に付いてた第五音素の譜石をもらったから湯たんぽ代わりになるかなーって」



そう言っている間にも漸く動けるようになってきたのか、幾分か顔色が戻りつつあるグレイはゆったりとした動作でレジウィーダを振り返った。



「お前、













誰のせいだと思ってンだよこの馬鹿女ァっ!!」



そう叫ぶやいなや目の前で得意気にしているレジウィーダの両頬を容赦なく引っ張った。



「いはぁあああああいっ!?」

「テメェ忘れたとは言わせねーぞ……一年前に雪の降る海ン中に沈められた事をよォォォ」



あ、そんな事したんだ。そんな仲間達の心の声が聞こえた気がしたがきっと気のせいだろう。

レジウィーダは急いで拘束を解くと憤慨した。



「ちょっと待てよ! それに関してはセントビナーで清算しただろ!? しかもそれも全く同じセリフ付きで!」

「やっぱり馬鹿かテメェ! たった一発殴られただけで許されたと思うなよ!?」

「許せよ心せっまいなぁアンタは!」



こちとらか弱い乙女やぞ!



「いや、レジウィーダに限ってそれはない」



ヒースのツッコミに仲間達もうんうんと満場一致で同意した。

しかしこのままではますます街に行くのが遅くなってしまう。そろそろタリスが譜術を放ちそうな雰囲気を醸し始め出した時、それよりも早くアニスがトクナガを巨大化させて二人に近付いていった。



「あんた達ねぇ………こちとら寒ぃんだからくだらない喧嘩してんじゃねぇええええええっ!!」



そう叫ぶと同時にトクナガの腕で二人を掴んだ。



「おわっ!?」

「グェッ!?」

「ほら、さっさと行くよ!!」



アニスはずんずんと大股で歩き出し、その後ろを二人を捕まえたトクナガもついて行った。

何だか嬉しそうな声と苦しそうな声がそれぞれ聞こえたような気がするが、ルーク達は顔を見合わせ、それから苦笑しながら三人と一体の後を追ったのだった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







元々ルーク達はセントビナー崩落を知らせる為、マルクトの帝都であるグランコクマへ向かっていた。キムラスカにも自分達の生存の報告をした方が良いのではと言う意見もあったが、あの場所はモースの息がかかっているのもあり、今行くのは逆に危険と言う結論になり、海を渡って向かう事なった……のだが。シルバーナ大陸に近い海域に差し掛かった時点でタルタロスのエンジン部分に異常が発生したのだ。

音機関に詳しいガイや、手先が器用なグレイやヒースも修理に取り掛かったが流石に専門的な知識がない為、何とか応急処置をして一先ず一番近いケテルブルクへと進路を変更せざるを得なくなってしまった。

ケテルブルク港に着いて直ぐに地元のマルクト軍に事情を説明し、取り敢えず点検をしてもらう事となったのだが、何せ国が抱える大型装甲艦だ。修理をするには専門の修理士を呼ばなくてはならず、その手配を街の知事であるオズボーン子爵に依頼をする必要が出てきてしまった。

取り敢えず街に向かう事となり兵士に街までの案内を申し出られたが、ジェイドがこの街の出身であると言う衝撃のカミングアウトをかました事により彼自らが仲間達を案内する事になった。

道中でディストもこの街の出身である事がわかったりとちょっとした話で盛り上がりつつも早々に知事の屋敷へと着き、ジェイドはノックもなく入口の扉を開けてさくさくと入っていった。



「え、これ勝手に入って良いのか?」

「ジェイド君が大丈夫なら平気っしょ」



戸惑うルークを他所に街に入ってからトクナガから解放されたレジウィーダも迷う事なく家へと入る。その後にそれぞれが「お邪魔します」と小さく声を出しながらゆっくりとついて行った。

そして………



「………お兄さん? それにレジウィーダまで」

『お兄さん!!?』



奥まった部屋に入った時、そこにいた眼鏡をかけた女性の言葉に名前を呼ばれた二人以外が驚愕の声を上げたのだった。
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