驚くルーク達を無視して、ジェイドは女性に微笑んだ。
「やあ、ネフリー。久し振りですね。貴女の結婚式以来ですか?」
明るくマイペースな挨拶だが、ネフリーにとってはそれどころではなかった。何せアクゼリュス崩落で死んだと思われた兄が目の前にいるのだ。執務室の椅子から立ち上がると足早にジェイドの前に来ると「どうなってるの……?」と信じられないような表情で自らの兄の顔に触れた。
「アクゼリュスで亡くなったって……」
「ああ、実はですねぇ……───」
そう言ってジェイドは経緯を簡単に説明した。色々と省いてはいるが、それでも膨大で衝撃的な内容だ。粗方聞き終えた時にはネフリーが頭を抱えてしまったのを誰も責めることは出来なかった。
「………何だか途方もない話だわ。小説でも読んでいるみたい」
「事実は小説よりも奇なり、だよ!」
レジウィーダはそう言って笑うと、ネフリーは脱力しながら苦笑した。
「あなたも相変わらずね……お兄さんとも会えたようで良かったわ」
「そう言えばレジウィーダ。貴女はネフリーと会った事があるのですか?」
ふと、ジェイドが気になった事を問うと、それに答えたのはネフリーだった。
「一年ほど前にね。昔、皆で埋めたタイムカプセルを見たいと言って突然訪ねて来たのよ」
「何でまたそんな物を……」
ジェイドがジト目でレジウィーダを見るが、当の本人は今ここで言うつもりはないらしく口笛を吹きながら顔を逸らしていた。
そんな二人の様子をどこか懐かしそうに見つめると、ネフリーは「取り敢えず」と続けた。
「事情はわかりました。タルタロスの修理の方も最速で来てもらうよう手配するわ。あと、ホテルの方にも部屋を用意してもらうよう連絡をしますので、皆さんもゆっくりとお休み下さい」
「ありがとうございます!」
ルークがそう言ってお礼を言うのに倣い、仲間達も嬉しそうに頭を下げた。
それを皮切りにジェイドは来た時と同じようにさっさと扉の方へと踵を返し始めた。久し振りの兄妹の再会にしては締めが呆気ないが、ネフリーも彼の性格をよくわかっている為か、去っていく兄を引き止めようとはしなかった。
「では、僕たちもこれで失礼しますね」
そう言ってイオンも頭を下げアニスを伴い部屋を出るのを始め、レジウィーダ達もその後に続いた。*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇
知事の屋敷を後にして、観光もそこそこにホテルへと足を運び、暫く振りのベッドにアニスを始め仲間達も漸く一息を吐く事が出来た。
一先ずタルタロスの修理が終わるまでは数日滞在する事となったので、その間はなるべく目立つ行動は避けつつも各自自由に過ごす事となった。
そんな中、レジウィーダ達は取り敢えず一人一つずつ与えられた部屋の内のジェイドの部屋へと集まった。こうして皆で集まって一つの場所で話すのも魔界でのタルタロス以来だったが、あの時とは違い苦しいまでの重苦しさは感じられなかった。
全員が集まったのを確認したジェイドが「それでなのですが」と口を開いた。
「折角の自由時間に集まってもらってすみませんが、ここら辺で一度ある程度の話を整理しようかと思いまして」
その言葉に反対の意を示す者はおらず、全員が頷いた。
「まず、これからの事。これはダアトを出て直ぐの時でも話が出ましたが、アッシュの情報ではアクゼリュスの崩落により、陸続きで崩落地と近いセントビナーの崩落が予想されています」
「ですが、預言の監視者であるお祖父様にはその可能性はないと言われてしまい、手を借りることは出来ませんでした」
ジェイドに続きティアもそう説明すると、イオンも悲痛そうに眉を下げた。
「悲しい事ですが預言が全てである彼ら、そしてローレライ教団にとって、預言に記されていない事に関しては信じていないのです」
「勿論、全員じゃないんだけどね」
アニスの言葉にレジウィーダも「わかってるよ」と頷いた。
「だから保守派と改革派、なんてのに分かれてるんでしょ?」
「……はい。僕にもっと力があれば、もう少しこのバランスも取れていたのかも知れませんが……不甲斐ないです。これではフィリアムの言うとおり、情けない導師ですよね」
「フィリアムが? そんな事を言ってたのか?」
驚いたようにグレイが問うと、その時の事を思い出したのかアニスが頬を膨らませた。
「ナタリアとヒースが連れてかれた後にだよ! もう信っじらんなかったんだから! 仮にも自分の所属する場所の最高指導者なんだよ! ……前はあんな人じゃなかったのに」
「アニス。僕の為に怒ってくれてありがとう。でも事実でもありますから」
肩を落としてどことなく寂しそうにするアニスに、イオンも苦笑を漏らしながらそう返した。
「……ふむ。そのフィリアムについても後で聞きたい事がありますが、取り敢えず話を続けますよ」
眼鏡のブリッジを押し上げながらジェイドがそう言うと、話を元に戻した。
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