A requiem to give to you
- 再出発(1/5) -



「皆、準備は良い?」



薄暗い部屋の中心に輝く譜陣。ここはユリアロードと呼ばれ、ここを通って外殻大地へと行く事が出来ると言う。

ここを抜ければまた戦いの現実へと戻る事となる。何もないが、戦いとは無縁でいられるこの街にいれば、少なくとも身の安全は保証される事だろう。それでもなお向かうのかと、まるで最終確認をするかのようなティアの言葉にレジウィーダ達はしっかりと頷いた。



「もっちろん! まだまだやる事があるんだ。こんなところで立ち止まってなんていられないよ!」

「ああ、今こうしている間にも師匠は動き続けてる。セントビナーの危険だって迫っているんだ」



言葉にはしないが、タリスやグレイも特に異論はないようだ。それぞれの反応にティアも一つ頷いて返すと、手に持つ杖の先で譜陣を一度叩き、先陣を切って見せた。

譜陣から放たれる光に包まれ、それが収まると同時に彼女の姿も消えていた。それを見てルークが戸惑う様子を見せるが、後ろにいた三人に背中を(物理的に)押された事で気を取り直し、意を決すると鞘に収まった剣を取り出し、先程のティアと同じように譜陣を叩いたのだった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







時は少し遡り、ユリアシティにて。

市長と話をする為に訪れた家を後にしたルークとティアは、来た時とは違い暗い空気を纏っていた。



「まさかアクゼリュスの崩壊が預言に詠まれていた事だったなんて……」



ティアの言葉にルークはますます表情を暗くし、元々知っていたレジウィーダ達も苦々しい顔をせざるを得なかった。

元々はルークが市長へとアクゼリュスの事で迷惑をかける旨を伝え、お願いする為に話に行ったのだ。話の流れと、彼自身の罪悪感から、謝罪を挟むのは最早仕方がないのだが、しかし市長から返ってきたのは彼が想像していた事とまるで違う物だった。



「グレイはやっぱりその……知ってたのか?」



グレイはヴァンと繋がりがあり、一時的とは言え彼の計画とやらに協力していた。況してやあの六神将の補佐でもあるのだから、知らないと言うことはないのだろう。

案の定彼はルークからの問いに間髪入れずに「まあな」と頷いて見せた。



「ついでに言っておくが、そこで黙ってる二人や、ここにはいねェけどヒースも知ってたぞ」



だろ?

そう言ってグレイが二人、特にレジウィーダを見るとタリスは静かに頷き、レジウィーダも少しバツが悪そうに肯定を示した。



「マジかよ!?」



そこまで知ってる奴がいるなら寧ろ誰かには言えよ、と突っ込むルークの言葉も決して間違いではなかった。流石にティアもそれには頷いたが、前のように怒ることはなかった。



「信用、出来なかったのよね」

「まぁ、端的に言えば……そうなるわねぇ」



今でこそある程度お互いの素性や目的がわかっている分違いはあるが、当時はやはり所属も国も違う上、一部の者達は誘拐紛いの事までしでかしている。それがわかっているのか、ティアも申し訳なさそうにそう言うとタリスも同じように、けれどはっきりと肯定した。



「例えそうでなくとも、この世界の預言への影響と信仰力を顧みるなら、きっと私なら言い出せなかったと思うわ」

「いや、流石にあたしも無理」

「………………」



タリスに同意するようにレジウィーダもそう言い、グレイは何も言わないが………彼の性格的に一番言い出しそうにないのは目に見えていた。



「何にしても、過ぎてしまった事を私達だけでどうこう言っても仕方がないわ。寧ろルークは世界的に弁明……いえ、反論の余地が出来た事に感謝してこれを機に反撃していかなくちゃねぇ♪」

「お、おう?」



今一つ理解が追いつかないルークが首を傾げながらも頷き、タリスが手を口に当てて「ホホホ」と笑う光景にティアは溜め息を吐き、グレイは肩を竦めたが、どことなくいつもの雰囲気に戻りつつある事に気付いたレジウィーダがそっと笑った。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







光が消え、次に視界に入ったのは暗くも美しい洞窟の岩肌と、足元に広がる水だった。どうやら無事にアラミス湧水洞へと出たらしい。

先に来ていたティアが全員の姿を確認すると、皆を促して出口に向かって歩き出した。



「まずはセントビナーが本当に無事なのかどうかを確かめないと」



市長……テオドーロの話ではセントビナーの崩落の心配はないと言った。アクゼリュスの崩落は秘預言に詠まれていたが、更なる崩落についてはこれ以上詠まれてはいない。だからそんな事は起こり得ない、と言うのが監視者としての意見だった。

典型的な信者の意見にグレイは呆れ、ルークやティアでさえも戸惑いを隠せずにいたが、こちらがいくら言おうとも彼らが意見を変える事はないのだろうと早々にこれ以上の話を諦めたのも記憶に新しい。



「ここから先は魔物の巣窟になっているわ。油断はしないで」



ティアの言葉にルーク達も武器を手に警戒を強めながら足を進めて暫くすると、見慣れた金髪の男の姿が見えてきた。



「あれは………ガイ!?」



ルークの言葉に全員が驚いてそちらを見ると、ガイは変わらない爽やかな笑みを浮かべてこちらに近付いてきた。



「漸くお出ましかよ。待ちくたびれたぜ、ルーク」

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