A requiem to give to you
- 決意の時(1/6) -



堕ちたガラス玉。そこから出てきたのは光か闇か。光は地下へ、闇は天へ。再び合間見えん事を願いながら……────






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







外郭大地の地下に存在する魔界。未だルークは目覚めず、静かに眠っている。その側では彼を主人と呼び慕う小さな聖獣が一匹、その目が再び開かれるのを待っている。

それとは別にもう一人、つい先程まで眠っていた人物……レジウィーダが目を覚ました。起きた早々に元気に叫び倒した(?)彼女はその声を聞いて慌てて入ってきた者達にも気付かず、珍しく慌てふためいて部屋の中をウロウロしていた。

先に部屋に入ってきたタリスやティアが声をかけても振り向かないレジウィーダに、後から入ってきたグレイが拳骨をその頭に落とした事で一旦落ち着くことが出来たのが、つい今し方の事だった。



「……ンで、起きて早々に何騒いでンだテメェは」



未だに頭を押さえて蹲る彼女に心配の欠片もない一言である。レジウィーダは目を合わせずに両手を握ったままモニョモニョとしていた。



「あー……えーと、うー………」

「あ?」

「グレイ、圧をかけないの」



今にも手が出そうなそんな彼を宥めつつ、タリスは座り込む彼女の目の前に屈んで優しく声をかけた。



「無事に目が覚めて良かったわ。傷も大丈夫そうだけど、まだ何か不自由はある?」

「タリス………ううん。体も動くし、そこは大丈夫。……大丈夫、なんだけど」



タリスの問いかけに一度は目線を合わせたレジウィーダだったが、それからグレイを見て直ぐにまた目線を下ろして落ち込んだように項垂れてしまった。それを不思議に思ったタリスは首を傾げた。



「グレイ、貴方何かした?」

「身に覚えがねーよ」

「ち、違うって」



そんなんじゃない。そう言って否定したレジウィーダは意を結したように立ち上がるとグレイの前まで来て彼を見上げ、それから両手を広げて見せた。



「これ……!?」



彼女の両手から出てきたのは、砕けて光を失った緋色の宝石だった。それを見たグレイは何故だか鈍器で頭を思いきり殴られたような衝撃が走り、言葉を失った。

そんな彼の側に来て同じくレジウィーダの手の内を覗き込んだティアは首を傾げ、タリスは暫く見つめた後に思い出したように声をあげた。



「あら? これって確かグレイの携帯についていた物よね」

「あ、ああ………そうだけど。いや、それよりなんでコレをお前がって言うか、何でこんな事になってるんだよ」



いつもだったら怒鳴っていてもおかしくはない状況だが、それすらも出来ないほどの戸惑いなのだろうか。グレイが困惑を露わにしながら問うと、レジウィーダは勢い良く頭を床に叩きつけんばかりに下げた。



「ごめん! あたしが拾って持ってたんだ! これを響律符の代わりにして魔術を制御してたんだけど、この間の事で壊れちゃったみたいなんだ……!」



この間の事、とは間違いなくアクゼリュス崩落の事だろうことはこの場にいる誰もが直ぐに理解出来た。



「いつかちゃんと返そうとは思ってたんだ。でも、現状これじゃないとまともに能力の加減が出来なくて、《鍵》の所在がわかったから、それまでとは思ってたんだけど……」

「! だからトゥナロは能力を使わせるなって言っていたのね」



ここには既にいない彼の存在の言葉を思い出しながらタリスはそう呟き、そして更に頭を過った疑問に気がついた。



「ちょっと待って。その石ってそんなにすごい物だったの?」



見た目は本当にただの透明感のある石だ。よくお土産コーナーなどで見かけるパワーストーンのストラップ程度の認識しかなかったタリスからして見れば当然の疑問だろう。

そんな彼女の疑問にはグレイが答えた。



「これは……この世界の例えで言っちまえば、天然の響律符みたいなモンだ。それもオレらが着けてる物よりもよっぽど強力の、な─────オイ」



グレイが未だに頭を下げているレジウィーダを向いて言った。



「いつまでしょげてンだよ。大体、元々はお前の物なんだからオレが謝られる言われはねーよ」

「……そうかも知れないけど。でも、態々逆に持っていた意味があるのなら、勝手に破ったのはあたしの方だ」



だから、ごめん。そう言ってもう一度頭を下げてから顔を上げるレジウィーダにグレイは心底居心地の悪そうに眉を顰め、やがて盛大な溜め息を吐くとその紅い頭に手刀を落とした。



「いてっ!?」

「らしくねー事すンな。そいつがお前を守ったからそうなっちまったってンなら、役目を果たしたって事なんだから壊したとは言わねーよ」

「でも……」

「確かにもう二度と手に入らない物だけど、せっかく生き残ったんだから、オレへの罪悪感なんて感じてねーでそれをくれた奴に感謝でもしとけ」



そこまで言うとグレイはこれ以上の言葉を受け取らないと言わんばかりに踵を返して部屋を出ようと歩き出し、それから一度だけタリスを振り返った。



「この件に関して色々と気になると思うけど、ヒースと合流したら一度まとめて話してやるからちょっと待っててくれ」

「え、ええ」



戸惑いながらもタリスが頷くのを見ると、グレイは今度こそ部屋から出て行った。

それから三人はどうしたら良いのか分からずに呆然としていたが、やがてレジウィーダの空腹の知らせを皮切りにティアが苦笑しながら彼女達に移動を促したのだった。

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