A requiem to give to you
- 白銀に歌う追複曲・前編(3/6) -



「取り敢えずタルタロスが直ったら、当初の予定通りグランコクマへ向かうんだよな?」



ルークの言葉にジェイドは頷く。



「一応、知事を通して伝書鳩を飛ばさせてもらいますが、セントビナーの件も含め、戦争を食い止める為にもまずは陛下へ話を持っていかなければなりません」

「そこから何とかしてキムラスカの説得も出来れば良いんだが……」

「現状はかなり厳しいだろうな」



ガイの希望的観測に、グレイは所詮は希望は希望だと言わんばかりに首を振った。



「キムラスカが今回の崩落やその後の戦争についての預言を知っているのもそうだけど、そもそもマルクトの方だってキムラスカに和平交渉を利用して国の一部をぶっ壊されてンだ」



いくら住人が無事だったと言えど、敵に国を攻められたも同然の仕打ちだ。仮にマルクト皇帝が許しても、その国の住人達が果たして同じ気持ちでいられるのかどうか、だ。



「でもこのまま指を咥えて見ているだけなんて出来ませんわ!」

「俺も、預言の事があったとは言え、最終的に火種を作ったのは俺自身だ。無理かもしれないけど………でも、やる前から諦めたくはない」



ナタリアに続き、ルークも強く自分自身の気持ちを伝える。それにタリスが驚いたようにルークを見た。



「ルーク………」

「そうそう! ルークとナタっちゃんの言う通りだよ!」



レジウィーダも二人に同意するように明るく声を上げた。突然のあだ名に慣れていないナタリアは目を白黒させていたが、彼女は構わず続ける。



「せっかく国一番の権力者に会えるチャンスなんだし、あたし達だけじゃ出来なくても、やれる事は増えるんだから! とにかくやれる事は全部やってみてからだよ」



失敗は成功のもとって言うだろ?

そう言って笑うレジウィーダに仲間達は脱力した。しかしその言葉で確かにつかえていた物が取れたのか、幾分かその顔は明るいような気がした。



「では、今後の予定はグランコクマへ行き、セントビナーへの対応とキムラスカとの戦争回避について陛下へ相談……で良いですね?」



その後については陛下の反応を見て決めましょう、とジェイドが言うと皆は力強く頷いた。



「次にレジウィーダ、グレイ、タリス、ヒース。あなた達の事です」

「あいよー」



名前を呼ばれ、代表してレジウィーダが返事をして話を引き継いだ。



「あたし達についてね。ここにいる人はもう知ってると思うけど、あたし達はここオールドラントとは違う世界から来てるんだ。その事について今言える範囲で話すね」



ローレライは実在する事。その使者を名乗るトゥナロと言う人物がおり、その人物とローレライによってこの世界に喚ばれたと言う事。ユリアの遺した預言を覆して欲しいとローレライが願っている事。

それから特殊能力がある事(ただし、他の三人が使えるのは予想外であった)



「そもそも何でそんな不思議な力があるんだ?」



元の世界では使えてなかったんだろ?

そんなルークの問いにタリス達は頷いた。



「そうねぇ。偶に気配を感じるような事はあったかも知れないけど、霊を視たり、対話したり……況してや何かに憑依させる事なんてした事すらなかったわ」

「タリスのそれは寧ろ家系的な物も考えられそうだけどね」

「そうなのか?」

「私の祖母が占星術とか、祓魔の分野に精通している人なの。昔は祓い事などもやっていたと聞いたことがあるけれど……本当の事かどうかはわからなかったわ」

「いや、割とガチだぞあの婆さん」



何か心当たりがあるのかヒースがそう言う。



「ぶっちゃけあの人の助言がなかったら今までの人生危なかった事とかもあったし」

「あら、そうなの?」

「まあ……いや、それは今は良いだろ。話を逸らしておいてアレだけど、それよりも特殊能力についてだけど……少なくとも僕は発現の原因はわからないよ」



脱線しかけた話を戻そうとヒースがそう言うと、グレイも頷いた。それを見てレジウィーダは煮え切らない顔をしていた。



「ヒースちゃんの能力については、あたしも正直何でそんな力があるのか想像も出来ないんだよねー」

「ヒースはって事は、オレのはわかるのかよ?」

「そもそもグレイにも能力があるのか?」



全く話を聞いたことがないんだけど、とルークが問うとグレイは一瞬考え、それから思い出したように言った。



「使う場面が限られてるからあまり人前で使った事はねーけど、ちゃんとある。何ならルーク。一度お前に使ったことがあるぞ」

「そ、そうなのか!? いつ!?」

「カイツール。当時色々と知られたらまずい事を聞かれちまってたからヴァンの目の前でその時の記憶だけ消した」



意外にもあっさりと答えられ、ルークのみならず他の仲間達も驚愕に目を見開く。



「つまり、貴方の能力は記憶を消す事、と言うわけなんですね」

「一応消すだけじゃなく、能力で消した分は戻せるけどな」



今度ちゃんと戻してやるよ、と素直に喜び辛い言葉にルークは何とも言えない顔をするしかなかった。

それで、とグレイはレジウィーダを振り返る。



「結局どうなんだよ?」

「うーん。あたしの予想だけど、多分アンタの場合はね……………………ん?」



そう言いかけて、突然レジウィーダは言葉を止めて首を傾げた。



「? どうしたんですか?」



イオンが心配そうにそう言うと、レジウィーダは暫く考えた後、不思議そうにグレイを見た。



「何か知ってた気がするんだけど、思い出せないや」

「何じゃそりゃ。適当にちょけてるンじゃねーだろうな?」

「マジマジ。多分、いろんな記憶と一緒に忘れちゃってるのかも」



その言葉にグレイを始め、話の流れを見守っていたタリスとヒースも一瞬だけ反応したが、レジウィーダは気がついた様子はなかった。
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