A requiem to give to you
- 再出発(3/5) -



「思ったんだけどさ」



ルークがそう言うと、全員は会話を止めて彼を見る。



「お前らが元の世界に戻る為にはローレライが何かしら鍵になってるって事だよな」

「そうだね。だからこそその力を継ぐルークやアッシュも関係してるんじゃないかな」



ローレライの願いは彼の見た最悪の未来を回避してもらう事だが、その力をルークやアッシュにも分けている事を考えると、きっとそれだけではないのだろう。恐らく、ルークやアッシュに何かをしてもらいたいのではないだろうかとレジウィーダは思っていた。



「まぁ、少なくとも直ぐには帰れないし、こんな状態を放置して帰ろうとは思ってないから安心しなよ!」



その言葉にルークは「え?」とレジウィーダを見た。



「あたし達はこの世界でずっと生きていく事は出来ない。だからいずれは戻らなくちゃいけないし、きっとその時にはルークやアッシュの力も必要となるんだと思う」

「…………」

「でも今はその時じゃないっしょ? 何ヶ月後、或いは何年後になるかもわからないんだし。だから今は、今この時だからこそやるべき事に集中しなくちゃ!」



ね、とレジウィーダがタリスとグレイを向くと、二人も言葉はなくとも確かに頷いて返していた。それにルークの気持ちが晴れたかは本人のみの知るところだが、その表情はいくらか明るい気がした。



「………………」



それから一同がその場を後にする直前、グレイはもう一度だけ始まりの場所を見つめ、それから直ぐに仲間達の後を追った。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







ヒースは自身の状況と目の前の事態に大きな溜め息を吐いた。



(何で、こんな事になってるんだろうか……)



ダアトの街中でナタリアと共にフィリアムの引き連れていた神託の盾兵に捕まり、教団の中へと連行された……のだが。一国の王女と同じ部屋に軟禁……とまでは行かないが、牢屋とかのような場所に監禁でもされるのかと思いきや、ナタリアと離されたヒースが連れてこられたのは様々な機材……いや、譜業装置のある部屋だった。

他にも辺りに散らばる紙、乱雑に置かれた本。形様々な鉄材や木材など、以前訪れたベルケンドの研究所のような、差し詰め誰かの研究室のような場所に連れて来られていたのだ。

……誰か、と言うのも愚問だろう。



「全く、私は忙しいと言うのに……何でこんな事に時間を使わなければならないんですかね!」



目の前で面倒臭いと言わんばかりにぶつくさと文句を垂れている男、通称《死神》ディストの部屋なのだろう事は想像に難くなかった。

ディストはヒースが連れて来られるや開口一番に「折角のオフなのに何で今来るんですか!」と理不尽極まりない発言をかましてくれた。こっちだって好きに来たわけでもないのにと反論しようとするも、自身を連れてきた兵士が「グランツ謡将の命令ですので」とディストを一蹴した事により、その発言が気になり口を閉ざす事となった。

それから兵士が去るのも待たずに小さな譜業装置を目の前に出したかと思うとコードを伸ばして腕に巻かれたり、別の譜業装置から光を浴びせられたりする事になり、今に至る。



「今日はタルロウのアップデートの予定だったと言うのに……絶対に休日手当てをふんだくってやりますから!」



そう未だに途切れぬ恨み辛みを吐きながらパソコンのような譜業のキーボードを忙しなく動かし続けるディストに、かれこれ20分近くは黙って成り行きを見守っていたヒースも良い加減退屈になり、口を開いた。



「そんなに文句があるなら、ヴァン謡将に直談判でもしてくれば良いのに」

「それが出来ていれば苦労はしませんよ!」



只でさえあちらこちらに飛び回っているのだから、所在が分かっていても会いにいくのも大変だと彼は言う。そう言うところはこの世界の不便な部分だとつくづく思わざるを得ない。



「こう言う時に電話とかメールみたいなのがあると便利なんだけどな」



そう漏らすとディストは動きをぴたりと止めた。



「電話……とはレジウィーダがたまに行っていた譜業装置を使った通信会話の事ですね」

「ん? ああ、まぁ……そうですね」

「確かにこの世界にはそのような技術はまだ存在しません。ですが、理論上は可能だとは思いますけどね」

「やっぱりそう思います?」



どうやら話題に興味が出てきたのか、ディストは漸くヒースの方を向いて頷いた。



「基本的には第三音素を利用するので、第三音素の音素帯に電波の送る譜業を作るのが理想的でしょう。もしくはそれに代わる装置を二種類作って一つは空に打ち上げて、もう片方は各地に設置して空に流した電波の受け口を作る、と言ったところか」

「二つ目はまさに人工衛星の活用法ってところですね」



ただ、音素を流用しているこの世界のやり方としては一つ目よりも余程手間で大変だろう。音素帯ならば地球のように意図的に電気を作る必要もないし、上手く活用すれば生活基盤も今よりも更に伸びると思われる。

そう言うとディストも同意を示した……が、



「ただそれを作り、設置するには膨大な金銭や希少な素材が必要となるので現実的ではありません」

「そうですか」



それは残念です。そう言うとディストもどことなく惜しいと言う表情を露わにしながらも頷いた。

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