A requiem to give to you
- 決意の時(3/6) -



「フィリアムがレジウィーダのレプリカだと!?」

「はい。私も先日初めてディストさんから聞きましたけど、イレギュラーで性別が反転してしまったみたいですね」



恐らく通常ではあり得ない現象が起きている事に疑問を抱いているのであろう彼に先回りをするようにシルフィナーレは頷いて返した。



「欠けてしまったモノを元に戻すには、どちらかの入れ物を壊して取り出すしかありません。私はあの子、レジウィーダに消えて貰うことを望みます」

「何故……彼女の死に拘るのですか?」



そう問いかけたのは今まで成り行きを見守っていたイオンだった。



「先日のアクゼリュスの時から思っておりましたが、貴女からはレジウィーダへの異常な感情を見受けられます。僕の記憶違いでなければ、貴女達二人はキムラスカで初めて対面していたかと思っていたのですが、それにしては………随分と確執が強いような気がします」

「…………成る程、流石は最高指導者。よく人を見ておいでですね」



先程までの雰囲気を収めたシルフィナーレは、一息吐くとその細い指先に力強く握り込んだ。



「個人的な問題ですよ。彼女は覚えていないですが、嘗て私はあの子には会った事があるのです」

「え? それってどう言う……」

「その時に、あの子とその兄には………私にとって、とても大切なモノを奪われてしまいましたので、ちょっとした復讐心です」



ちょっとした、とはとてもではないが言い難いのだろう。そう言ったシルフィナーレの表情はその言葉通りに受け取るにはあまりにも憎しみで歪んでいた。



(一体何がどうなってるんだ? あの子の兄って、あいつもここに来た事があるってことか……? いや、そもそもレジウィーダ自体も過去にこの世界に来ていたことになる……のか? って言うか復讐心って何!?)



あいつら一体何しでかしたんだよ!

いくら考えても答えの出ない疑問にヒースは頭を抱えた。相手の死を望むレベルの憎しみ、それは過去に同等の仕打ちを受けたことになるのだろうが、ヒースには想像がつかなかった。



「さて、皆さんには愚痴の二つ三つをもう少し聞いて頂きたいところなのですが……そろそろお時間のようなので失礼いたしますね」

「何言ってんの? 簡単にアンタを帰すわけないじゃん」



来た時と同じようにゆっくりと足を進めようとしたシルフィナーレの前にアニスがトクナガを巨大化させて立ち塞がる。また、彼女を挟むようにジェイドとアッシュも武器を構えていた。

どうやら彼女は一人だけで来ていたらしく、追手や援軍の気配もないところから捕らえられそうと踏んだ一同が動いていたが次の瞬間、地面が大きく揺れ出した。



「きゃっ!?」

「ナタリア!」



思わずよろけて倒れそうになったナタリアをアッシュが直ぐに受け止めた。他の仲間達も自身のバランスを整えているのを傍目に、シルフィナーレは揺れを感じていないかのように真っ直ぐと立ち、今度こそ出口へと向かって去って行ってしまった。



「フィーナさん!」



暫くして揺れが収まった頃には、彼女の姿は完全になくなっていた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「────っ!?」



突然、崖から突き落とされるような感覚がしてルークは驚きに跳ね起きた。



「こ、ここは……」



見慣れない部屋、窓から見える暗い空。病院……とも違う雰囲気に、恐らく魔界にある誰かの家にいるらしい。



(そうだ、俺……アッシュの意識の中にいて、同じものを見て、聞いて………ジェイドがレプリカの生みの親だってわかって、フィーナがいて、フィリアムって奴がレジウィーダのレプリカだって知って。それから………そうだ!)



アッシュから意識が切り離される直前に彼が言っていた更なる崩落の事。それが夢ではなく本当の事だとしたら、寝ている場合ではない。

ルークはハッとすると眠っていたベッドがから立ち上がるが、暫く動いていなかった体は直ぐには力が入らずに思わず転んでしまう。



「いっ……たた……」



なかなかに良い音がしたが幸い頭を打ったりはせずに済み、痛みが引くのを待ってから今度はゆっくりと立ち上がった。

するとその時、目の前を水色が覆った。



「ご主人様! 起きたですの!」

「うわっ、ミ、ミュウ!?」



驚いて顔から引き離してその小さな聖獣を見ると、ミュウは本当に嬉しそうに体を揺らしていた。



「ご主人様が起きてミュウは嬉しいですのー!」

「ミュウ……」



皆が自分を置いて行ってしまう中、ミュウだけは最後までルークの側を離れなかった。その事実にルークは胸に込み上げるモノを感じたが、それは直ぐに吐き気へと変わった。



「でも俺は……レプリカだった。人間じゃ、ない」



記憶は失ったのではなく、最初からなかったのだ。その事実が今になってルークの中で現実味を帯び、動けなくなる。

そんな彼にミュウはルークの手を離れて心配げに見上げた。



「みゅ………ボクにはよくわからないですけど、ミュウのご主人様はルーク様だけですの!」

「! ミュウ……ありがとう」

(そうだ、今は嘆いている暇はない。こんな所で落ち込んでいる今も、セントビナーの人達が危ないんだ!)



ルークは意を決して顔を上げると、誰かいないかと窓の外を見た。

地下にあるそこは陽の光の入らない、まるで夜のような空が広がる。窓の外からは庭が見え、見覚えのある小さな花が群をなして一面を染め上げ、ルークの探す人物は……そこで静かに背を向けて佇んでいた。

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