A requiem to give to you
- 再誕を謳う詩・前編(1/5) -



過去にあった時間。今ある時間。そのどちらもかけがえがなくて、大切な思い出だ。

確かに辛かったり、憎くて憎くて仕方がない時もあったけど、今なら思う。あの時、悪魔の手を振り払って良かったって。



まさかもう一度、チャンスが巡るなんて思わなかった。だから今度は好きな事をしようと思った。

その時間がいつまで続くかはわからなかったけど、やりたい事をやって、思い切り笑って、大切な人達との時間を過ごす幸せを存分に味わう事が出来たのだから、結構満足しているんだよね。



















……なーんて、ね。本当はもっともっとやりたい事はあるし、先の未来を見ていたい。大切な存在といつまでも側にいて、幸せを築いていきたい。

だから折角得たチャンスを棒に振るなんて馬鹿な事、したくはないなぁ。君もそう思わない?















ね、トゥナロ。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「あ、シンク参謀長じゃないですか」



今日は休みだ。いつも側にいる(寧ろこちらから勝手にひっついている)アリエッタは任務でおらず、持ち越した仕事などもない(そもそも大きな仕事は割り振られないようにしている)ので、珍しく暇を持て余していた。

そんな時は当然暇潰しをしに行くしかない(何故、とは愚問)。ならば行くべき場所は一つだろう、とある人物の部屋を訪ねたのだが、残念な事に不在だった。

記憶が確かならば今日はそいつも休みの筈だったから、きっといると思ったのに少し拍子抜けになりつつも、よく入り浸っている場所へ向かう為に教会の廊下を歩いていると、見知った(寧ろ知り過ぎている)存在であるシンクを見つけた。名前を呼ばれたシンクは仮面がなくなり顕になった素顔を顰めながらも振り返った。



「アンタか……」

「あ、今は参謀長ではありませんでしたね!」



色々あって現在は参謀長はおろか階級も降格している(それでも元が上から数えた方が早い階級だったから、少し下がっただけでは今の己を下回ることはないのだが)為、そう言うと「嬉しそうに言わないでくれない?」とため息を吐かれた。



「と言うか、アンタ今日休みじゃなかった?」



その問いにええ、と頷く。



「だから暇潰しにグレイを訪ねたのですが、部屋にいなくてですね………どこへ行ったか知りませんか?」

「また標的にされてる……」

「おや? シンクも興味ありますか???」



どことなく同情したような表情をするシンクに懐に忍ばせていた特注のロープを取り出しながら問うと、彼は全力で否定した。



「ボクをアンタの気色悪い趣味に巻き込むな!」

「気色悪いだなんて酷いです。世の大人はもっと過激な趣向があると伺っていますよ?」

「アンタ自分の年齢考えたことある?? てか、大人への偏見酷過ぎ」



年齢、ねぇ。

大人への偏見は確かに盛ったが、どんな趣味趣向を持つのに年齢はそこまで関係はないとは思う…………いや、それよりも。



「シンク」

「なんだよ?」

「私達は今、何歳なんでしょうね?」



世間から見て【イオン】は十四、五歳だ。しかしシンクや今の導師の座にいるイオンは生まれてから三年も経っていない。

流石に同じ顔からの問いだったからなのか、いつもならば鼻で笑い飛ばしているであろうシンクも真顔になった。



「………何が言いたいのさ?」

「【イオン】を基準とするべきなのか、それとも自分達の身体が生まれたタイミングを基準とするのか。貴方はその辺をどう考えますか?」

「…………………」



シンクは黙って考える。問いかけておいて何だが、別にこちらとしてはシンクやイオンに関してはどちらでも良いとは思っている。



(だって十四歳でも二歳でも、”僕”からしてみればこいつらは弟のようなものだからね)



そう考えて、こっそりと笑う。少なくとも、クリフとして生を受ける前までならば絶対にそうは思えなかったから。きっとこう思えるようになったのは、あの傍迷惑な………それでいてどこか危うくて放っておけない紅色の少女のせいだろう。



『大バカイオン! シンクに謝れ!』



そう言えば、いつだったかその少女にそんな事を怒鳴られた事がある。それと同時に、この場所は嘗て目の前の存在を締め上げた場所でもある事を思い出したのだった。



(………結局、あの時の事は謝らなかったんだよね)



かと言って、今更謝ったところでだから何だと言うのだ。大体、今の己はもう【イオン】ではない。イオンとしての生は二年前のあの日に置いてきてしまったのだから。



「───ちょっと、聞いてんの?」



そんな声に意識をシンクへと戻すと、彼は呆れたように腕を組んでいた。



「ああ、はい。すみません、ちょっと考え事をしてました」

「自分で聞いて来た癖に……。フィリアムやグレイに感化され過ぎじゃないの?」

「すみませんって。そう怒らないで下さい」



苦笑してそう言えば、彼は少しだけ意外そうに目を丸くしつつも咳払いをした。



「……まぁ、それは別に良い。それで年齢のことだけど………………別に気にする事はないんじゃない?」

「?」



どう言う事だと無言で見つめていると、シンクは更に続けた。



「確かにボクの体はレプリカで、作られてから二年くらいだけどさ。だからと言って赤の他人に『ボクは二歳です』なんて言って赤ちゃん扱いされても困るわけだし、十四なら十四で二歳でいるよりも自由が利くんだからこれはこれで良いと思うけどね」

「成程。確かにそれも一理ある。その見た目で二歳児扱いは側から見ればどんなプレイだよってなりますよね☆」

「アンタそう言うことしか言えないわけ!?」



真面目に答えたボクがバカだったよ、と憤慨するシンクに笑いが漏れた。



「あははっ! まぁプレイは兎も角、良い回答をありがとうございました」

「良い悪いの基準がわからないんだけど……」

「まぁまぁ、細かい事は気にしない───ってね」
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